第51話

「てか、なんで薫さんはいっつもあたしをからかうんですか?」


受け取ったビールを飲みながら、薫をちらりと見る。


「リンをからかうとすっごく面白いから」


「さも当たり前のように言わんで下さいよ!

 あたし以外の人をからかって下さい」


「他の人はみんな大人だからなあ。

 それに、リンみたいな反応は期待出来なさそうだし」


「あたしも大人ですってば!」


「飴あげると喜ぶじゃない」


「あ、飴は確かに好きですけど…」


「じゃあ、問題ないね」


「勝手に解決しやがらないで下さい」


余裕な笑みを浮かべながら、薫はビールを飲んでいる。

この人は何でいつも、こんなに余裕があるのだろう。


「それより、例の話だけど…」


薫が切り出すと、美鈴がピクリと反応した。


「来週の土曜日に、私が知ってる店に行くみたいなんだ。

 どうやら新しいターゲットと行くみたいだよ。

 お相手は、最近取引を始めた会社の、受付の女の子らしい」


こくりと小さく頷き、話をちゃんと聞いている事を示す。


「そんでさ、私らもその店に行かない?」


薫の言葉に、美鈴はそれまで前に向けていた頭を、大きく動かして薫を見た。


「乗り込んで殴り込みを掛ける訳じゃないよ。

 あんまり近い席だとバレちゃうから、少し離れた席にしてもらって、相手の様子を見よう。

 それで、最後に捨て台詞の1つでも残して店を出よっか」


しのぶは口を挟まずに、静かに煙草を吸いながら薫の話を聞いている。

当の美鈴は、ちょっと期待外れの気持ちになった。


「もっと派手な事してやりてえです。

 山田の料理に強力な下剤をぶち込むとか」


「それだと他の人の店に対する信用性がなくなっちゃうし、お店に迷惑がかかるから駄目。

 物理的に何かをするより、精神的に何かをしてやった方が効くと思うよ。

 山田さんの安いプライド、ボキッと折ってやればいいさ」


それもそうだと、冷静さを欠いてしまった自分を落ち着かせる。


「どう?

 リンの怒りの全てをぶつけられるかは解らないけど、何もしないよりはましだと思うんだ。

 あの場に居合わせたとは言え、状況を目の当たりにしてしまったし、このまま大人しくしてるのは面白くないかなって。

 それに、山田さんの会話の内容も腹立つしさ。

 あの嘘つきな爽やかスマイル、ぶっ壊してやろうよ」

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