第42話

「今日もこれから取引先の子とデートするんよ。

 綺麗でいい子なんだ。

 本当はすぐにホテル行きたかったけど、酒強くて全然酔わせられなくてさ~。

 流石に薬盛るのは気が引けるし~。

 早くヤりてえわ。

 ちょろそうな子だし、その気になるのも時間かからんだろうけど」


薫が美鈴を見ると、口を堅く閉ざしたまま、山田の言葉を黙って聞いていた。


「じゃあ、そろそろ切るわ。

 店で待ってなきゃいけねえからさ。

 じゃあな」


吸殻を捨てた彼は、そのまま駅の方へと歩いて行ってしまった。

美鈴は無言のまま、山田の背中を見た。


「リン…」


こういう場合、何と声を掛けたらいいのだろう。

こちらとしてみれば忠告をせずに済んだし、美鈴の体に危害を加えられずに済んだからいいのだが…。


「…しょう」


美鈴が何かを言ったようだが、声が小さくて聞き取れなかった。


「ん?」


薫がしっかり聞こうと耳を傾けると。



「ちきしょうっ、あんのヤリチン野郎ぉおっ!」



烈火の如く燃え上がる瞳。

その表情は阿修羅の如く。

リンってこんな顔をするんだと思うも、言葉はそっと飲み込む。


「ちょっ、リン何処に行くのさ!」


ずんずんと歩き出す美鈴の右腕を、慌てて掴まえる。


「彼奴の股間、ミートハンマー(※焼いた時に肉が縮まないよう、柔らかくなるように肉を叩くトゲトゲハンマー)で叩いて再起不能にしてくるんじゃい!」


「気持ちは解るけど、とりあえず落ち着けって!」


進もうとする美鈴の腕を、何とか引き止め続けると、やがて美鈴の腕から力が抜けた。


「ごめん、痛かった?」


ふるふると、頭を左右に振る美鈴。


「リンはこれから山田さんと逢う予定だったの?」


無言のまま、ゆっくりと首を縦に振る。


「そっか…。

 山田さんが結婚してる事は知らないよね?」


その一言に反応した美鈴は、慌てて薫を見る。


「あの人、ちょっと前に結婚してるんだよ。

 指輪してるとこは見た事ないけど、山田さん家の近所に住んでる人が奥さんと一緒に歩いてるところ、見た事があってさ。


 私の言葉じゃ信用はないかもだけど、嘘じゃない。

 うちの会社でも山田さんと関係を持った人がいてさ。

 やっぱり結婚してるの知らなくて。

 その人は本気だったから、病んでしまって辞めちゃったんだけど…」


そこで1度言葉を区切る。

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