第31話

「そ、そんな事ないですってっ」


「照れてるところがいいねえ、可愛らしい。

 お姉さんは応援してるからね。

 よし、じゃああたしは先に行くかな。

 課長達に先に店に行って、みんなの事待っててって言われてるんだ。

 あ、美鈴ちゃんも一緒に行く?

 なんなら、先にこっそり飲んでよっか」


「あ、はい(ビール飲みたいんで)一緒に行きます!」


会社を出ると、あれこれ話しながら予約してある居酒屋へと向かった。

美鈴と一回り違うこの女性は、美鈴が入社した時からお世話になっている先輩だ。

面倒見がよく、仕事の教え方も上手なので、解らない事は大体この先輩に聞く。


そんな彼女はバツイチ。

離婚をしたのは一昨年の春前だったそうだ。

子供はいない。

3年という結婚生活にピリオドを打ったのだった。


久々の独り身を嘆く訳でもなく、のんびりしながら過ごしていると言っていた。

新しい彼氏を作らないのかと聞かれていた彼女は、『好きな人はいるよ』と苦笑いを1つ。

それ以上の事は何も言わなかった。


「薫ちゃん、今回もハーレムだろうなあ」


先輩が呟く。


「ま~、モッテモテですからね~。

 あ、でも先輩は今回薫さんの右隣りの席でしたよね?」


「そうなのっ!

 やっと運が向いたと思ってる。

 薫ちゃん、飲みに行こうって誘っても、サラッと交わされちゃうのよね。

 連絡先も教えてくれないし」


他の人も、同じような事を言っていたなと美鈴は思い出す。

プライベートで飲みに行った人はいないそうだ。

連絡先も殆どの人が知らないのだとか。


店に着き、予約席に案内された。

会が始まるまでまだ時間がある為、別会計でビールを2つ頼みこっそり乾杯。


「アタシ、薫ちゃんと付き合いたいのよね」


元気よく飲んでいたビールを、元気よく吹き出してしまった。

ビールで濡れた口元を、慌てておしぼりでゴシゴシと拭く美鈴。


「それは誠でござますかっ!?」


「アタシ、嘘は言わないわよ?

 優しいし、そこら辺の男より格好いいし、声も好みだし。

 薫ちゃんに付き合ってる人がいないといいなあ」


あ、これまじだ。

本気と書いてまじだ。

悩ましい溜め息をつきながら、先輩はビールを飲んだ。

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