第30話

電話対応を終えた美鈴も薫の元へ行き、薫から受け取った受領書に判子を押す。


「おはよ、リン。

 リンは樽酒持参で懇親会に行くんでしょ?」


「おはようございます、こんちくしょう。

 あたしはお酒様は好きですけど、そこまでやる程アルコールジャンキーじゃねえです。

 てか、あたしの事何だと思ってやがるんですか」


「よし、じゃあそろそろ行くかな」


「あからさまにスルーしないで下さいよ、ちっきしょう!」


「ほい、酒妖怪にならない飴あげる。

 仕事頑張るんだよ、じゃあ後でね」


美鈴を含めた女性陣に手を振ると、薫は足早に事務所を後にした。

薫がくれた飴を見て、ふと思う。

そういえば、他の人には飴あげてないな。


いつもあたしにだけけくれるのは何でだろう。

やっぱり、自分が最年少だから子供扱いされているのだろうか。

嫌味な扱いをされてる訳ではないから、別にいいのだけれども。



幸いな事に、今日は急な仕事やら突発の発送がなかった為、いつもよりも早めに仕事が終わってしまった。

ので、パート&アルバイト組は定時より少し早めにあがる事になった。


「美鈴ちゃん、本当にいいの?」


事務所のパートさんも先に帰る事になり、美鈴が引き継ぐ事に。


「はい、大丈夫です。

 お子さんのお迎えや、ご飯の準備もあるんですし、あたしにお任せあれです。

 じゃあ、また後で」


にこにこしながら答える美鈴に、頭を下げてパートさんは事務所を出た。

大した仕事量ではなかったし、これくらいならすぐに終わる。


仕事も片付き、帰る仕度を始める。

パソコンの電源を落とし、明日の発注書は課長のデスクの上へ。

他の女性社員の人達とロッカーに向かい、着替えを済ませた。


「山田さん、来てくれるといいね」


「どうですかねえ、忙しそうな方ですし。

 期待しすぎるのは良くないから、あまり気にしないようにしときます」


「とか言いながら、可愛い格好してるじゃ~ん」


痛いところを突かれた。

期待していないとは言ったものの、全くもって期待をしていない訳ではなかった。


ちょっと前にゆいと買い物に行った時、目にとまった黒のマキシワンピース。

ノースリーブなのだが、朝は少し寒かったから、薄手の白のカーディガンを着てきた。

靴はお気に入りの白のパンプスを履いてきた。

いつもの美鈴の私服は、パンツスタイルが多い。

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