第27話

「ただいま~」


「おかえり、お疲れさん。

 ゆいちゃん来てるよ~」


元気よく店のドアを開ければ、カウンターのいつもの席にゆいがいて、美鈴に気付くと手元にあるビールジョッキを軽く持ち上げ、にっこり笑顔を美鈴に向けた。

手を振りつつ、ゆいの隣の席に座ると、しのぶからおしぼりを受け取った。


「生でいいんでしょ?」


「うん、ガンガンに冷えたやつよろしく!

 ゆい、久し振りだね」


「1ヶ月ぶりくらいかな?

 ごめんね、仕事が忙しくて毎日地獄でさ~。

 嫌いな課長にあまりにもアタシにだけ仕事回されまくりで、いい加減ムカッ腹立ったから今日の仕事全部片付けて、帰り際に課長に笑顔で『課長は仕事が遅いから大変ですね、失礼します』って言い残して帰ってきたわ」


「ゆいちょ~かっちょいいっ!」


「アタシを誰だと思ってんの?」


「ゆい様!!」


しのぶが戻ってくると、ビールとお通しを受け取った。

乾杯をしてから、元気よくビールを喉に流し込めば、疲れも流れ去ってしまう。


「てか、今日はご機嫌じゃん。

 何かいい事あったの?」


「ん~、明後日会社の懇親会があるんだけど、ちょっと気になる人が顔を出すかもしれないんだよね」


洗い物をしていたしのぶの手が一瞬止まったが、美鈴達は気付いていなかった。


「今度はどんな感じの人なん?」


「背が高くて、笑顔が爽やかで、気配り出来る人」


「脈はありそうな感じ?」


「まだ解らないけど、脈があったらいいなあ」


ビールを飲み干し、おかわり。

ジョッキを受け取ると、すぐに口を付けた。


「あんまりガンガン攻めたりしないで、相手の様子を見ながら考えなよ?

 突っ走ってもいい事はないんだし」


「わ~ってるよ(※解ってるよ)

 連絡先くらいは交換出来るかなあ」


「浮かれてんなあ」


「恋する乙女はいつだって浮かれちゃうもんだもんっ」


「何処に乙女がいるって?」


「いやん、ゆいの目の前にちゃんといるじゃない」


「乙女はビールジョッキ持たんと思うよ。

 あと、おっさんみたいな性格はしてないと思う」


「うお~い、本人を目の前に堂々とディスるのやめておくんなまし!

 アラサー手前の大人には響くんだって!」


「ぶふぉっ!」


2人の会話を聞いていたしのぶは、耐えきれず吹き出したのだった。

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