第26話

「竹田さん、何かあるの?」


視線を向けられ、何と答えようかと考えるも、こういう時に限って頭の回転が悪い。

口をパクパクしていると、『山田さんとお話ししたいんだって~』と助け船?が。


「そうなの?

 確かにあんまり喋らないもんね。

 仕事の後に飲みに行ったりもしないし」


にっこりと微笑みながら、美鈴を見る山田。

その視線と笑みが何となく気恥ずかしくて、曖昧な返事をしながら視線を反らす。


「もし行けそうだったら、ちょっとだけ顔を出しますね。

 仕事の状況がどうなるか解らないから、あまり当てにはしないで下さい、

 じゃあ、失礼します」


山田が事務所から出ていくと、美鈴は溜め息を1つ溢し、胸をそっと撫で下ろす。


「良かったじゃん、山田さん来るかもだよ。

 色々お話し出来るじゃない」


「周りにおじ様ばかりだし、ろくに話せないと思いますけど」


「じゃあ、見計らって2人で抜けちゃうとか」


「いやいや、それは流石に駄目ですよ」


「一次会が終わったら、カラオケかボウリングだろうし、さらっと抜けちゃえば解らないって。

 2人だけの時間、ゲットじゃん」


確かに2人だけで話せるのは嬉しい。

周りを気にせず、会話に没頭出来るのがいい。

もし2人で抜け出す事が出来たら、しのちゃんの店にでも行こうか。


いやいや、まだ来ると決まった訳じゃないのだから、あれこれ考えても仕方がない。

これじゃああたしも、王子との一時を夢見る女性陣と同じではないか。

頭を左右に振りながら、先程山田から貰ったガムを思い出し、包装紙を綺麗に取るとガムを口に入れた。


山田が言っていたように、ミントが効いていた。

噛む度に鼻から通る爽快感で、残っていた眠気は見事に払拭された。


山田さんはお酒は好きだろうか。

自分は酒を飲む方だし、少々の事では酔わない。

友達と飲みに行けば、大体先に友達が潰れてしまうので、介抱係になる。

たまには介抱される側に回ってみたいが、きっとそれは叶わぬ夢だろう。


最近楽しい事もなかったし、明後日は何かいい事があるといいなと、淡く期待してみる事にする。

仕事は変わらず頑張っているし、たまには何かご褒美があれば、また頑張れる。


椅子に戻って座ると腕を上げて、大きく上半身を伸ばす。

小さく気合いを入れると、噛み終えたガムを捨て、残っていたミルクティーを飲み干した。

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