第25話

明後日はいよいよ懇親会だ。

その日が近付くにつれて、女性陣のご機嫌もよろしくなる。


「懇親会の為に、新しい服買ったんだ~」


「毎日欠かさずパックしてるんだけど、肌がぷるんぷるんになったのよ」


「新しい香水買ったから着けて行こうと思ってるんだけど、薫さん気に入ってくれるかなあ」


昼休みは専らこんな会話ばかりで、少々退屈だが文句は言えない。

食後、満腹感から訪れる眠気が欠伸を誘うのだが、口唇をぎゅっと紡いで我慢してみるも、あまり効果はなかった。

ので、諦めて大きな口を開けて欠伸を1つ。


「もうちょい女らしくしなさいな。

 折角の美人が台無しだよ」


「いやはや、食後の眠気には勝てませんって」


「男の人がいたら、呆れられちゃうよ?

 ほら、山田さんが現れたらどうするの?」


「どうもしませ…ふあ~ぁ…」


「俺がどうしたの?」


急に男の人の声がして、全員が出入口の方を見ると、スーツ姿の山田がにこにこしながら女性陣を見ている。


「や、山田さん!?」


それまで大きな口を開けて、大きく欠伸をしていた美鈴は慌てて口を閉じると、背筋をピンとさせた。


「林檎が入りそうなくらい、大きな口だったね」


クスリと笑われてしまい、思わず顔を赤くしてしまう。

人の言う事は素直に聞くもんだな、と美鈴は苦虫を噛む。

椅子から立ち上がると、パタパタと山田の傍へ向かった。


「はい、これあげる。

 結構ミントが効いてるから、眠気も覚めると思うよ。

 あと、この書類を部長に渡しといて」


ガムと書類が入った封筒を受け取る。


「山田さんの明後日のご予定は?」


女性陣の1人が声を掛ける。


「ん~、ちょっと遠くに書類届けたり、判子貰いに行ったりとか。

 どうして?」


「明後日、うちの会社と取引先の会社の懇親会があるんです」


「あ~、村山さんのところね。

 うちも世話になってるけど、流石にいきなり参加は出来ないよ。

 仕事も何時に終わるか解らないし」


「もし早く上がれたら、顔だけでも出してみるとか」


「会社同士の懇親会なんだし、他の会社の人間が来たら意味ないって」


「意味なくはないと思いますよ?

 ね~、美鈴ちゃん」


このタイミングであたしに話振るなよ!?

が、そんな事は言える筈もない。

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