第22話

薫の左右の席を巡り、壮大な争いが勃発した事があった。

日頃大人しい女性も、この時ばかりは数々の戦場を駆け抜けてきたソルジャーのような顔付き、及び勢いになったくらいだ。


仕事にも支障が出そうな勢いだった為、課長がくじ引きで決めるように提案し、現在もそれが継続されている。

懇親会の前日に、20人くらいいる女性陣にくじを引いてもらい、当たりだと紙に「右」「左」と書いてあるのだ。


「今まで当たった試しがないからなあ。

 1度でいいから当たりたい」


「皆さん、毎回必死ですね」


自分は誰の隣でも、特に気にしないけどな。

てか、くじ引きで席を決めても、酒が入ったらみんな薫さんのところに行ってるじゃん。

くじ引きに意味があるのだろうかと、美鈴は毎回疑問に思う。


「美鈴ちゃんは、誰か目当ての人はいないの?」


「え~、そうですねえ。

 特には…あ、山田さんとか?」


山田とは、最近たまに資料等を届けに来る、別会社の営業の人だ。

前の担当が異動になったそうで、山田が後継人になった。

穏やかな口調と、笑った顔が優しい男性である。


「山田さんは別の会社だから来ないじゃない。

 てか、美鈴ちゃんはあんな感じの人がタイプなの?」


「タイプと言うか…う~ん、雰囲気は好きですよ」


彼とは軽い話はする。

当たり障りのない世間話とか。

そういえば、いつだったか新しく買ったピアスを着けてたら、『ピアス、凄く素敵ですね』と褒めてくれた事があったな。

そんな事をふと思い出す。


元カレと別れてから暫く経つが、後腐れがないのが美鈴の長所?であり、うじうじせずに新しい人を探索中である。


「アプローチしてみたら?」


「事務所でアプローチなんて出来ないですよ。

 みんな見てるし、聞く耳立てるじゃないですか」


「あたし達は美鈴ちゃんの恋路を、温か~く見守りたいだけだって」


「嘘だ、絶対楽しみたいだけでしょ!」


そう言って、笑い話になる。


と、電話が鳴ると瞬時に女性陣は仕事モードに切り替わる。

この対応の切り替えの早さは、毎度の事ながら素晴らしいと、美鈴は内心思っていた。

良くも悪くも、職業病とやらかもしれない。


さて、自分も仕事をしなくては。

まずは入力からやってしまおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る