第19話

支えてくれたのは茜だった。

自身も仕事が忙しいのに、時間を見つけては薫の元に行き、世話をやいてくれた。


少しずつ少しずつ、ゆっくりと時間を掛け、漸く心の傷にかさぶたが出来始めた。

前よりは笑えるようにもなったし、やめていた料理も作るようになり、兄に弁当を作って持たせたりもして。


心に、気持ちに僅かな余裕が出来ると、働こうという気持ちが芽生えた。

アルバイトでも何でもいい。


しかし、全くもって働いた事もないし、社会に出た事もない自分が、果たして上手くやっていけるのだろうか。

不安は大きくなる。


兄に仕事をしたいと話してみると、まだ働かなくてもいいんだぞと言われたが、気持ちがある時に動きたいと伝えた。

暫くすると、兄が勤める会社の取引先が、アルバイトを募集していると教えてくれた。


倉庫の仕事だけど、重いものは持たなくても大丈夫で、在庫の数の記入や、簡単な梱包作業をしてほしいとの事。

やってみた事がないから解らないが、とりあえず面接を受けてみた。


けして大きな会社ではなかったが、人当たりのいい社長が迎えてくれた。


「出来る事からやってごらん、焦らなくていいんだから。

 何事もやってみる事が大事だよ」


その言葉が決め手となり、勤める事を決意した。

仕事が決まると兄はとても喜んでくれた。

就職祝いにとくれた腕時計は、今でも大切に使っている。


慣れない環境、知らない人達ばかりで、上手くやれるのか解らなかった。

しかし、後ろめいた気持ちでいても、何も始まらない。


気合いを入れるべく、暫くぶりに美容室に行き、長かった髪をバッサリ切った。

頭も心も軽くなった気がした。


髪を切った薫を見た茜は、「やっぱり薫は髪を切ったらイケメンだ」と笑った。

髪型を変えると、服装も変えなくてはならない。

今までは女性らしい服を着ていたが、心機一転でボーイッシュな服を着るようになった。


元々胸は小さい為、男物の服を着ると男に間違えられる事も多々あった。

それはそれで面白かった。


仕事は覚えるまでに時間はかかったが、出来る事が増えていくと嬉しかった。

初めて貰った給料で、兄に焼き肉をご馳走した。

兄は泣いていた。

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