第17話

骨となった母親と共に帰宅した。

父親は骨壷を抱き締めながら、ずっと泣いていた。

薫も部屋に籠り、泣くばかりだった。


携帯のバイブの音が聞こえ、鞄から取り出す。

母親が亡くなってから、携帯を見る余裕がなかった。


茜にも彼にも、母親が亡くなった事を連絡していた。

茜からは「落ち着いたら連絡下さい」と、メッセージが届いていたが、返信する時間も余裕もなかった。


彼からの着信履歴で埋まっていた。

メッセージも沢山届いていた。


『心配です』

『大丈夫?』

『俺に出来る事があったら言って』


今の心の状態で、彼の気持ちを受け止められる程のゆとりはなかった。

携帯を置くと、また泣いた。


暫くしてから大学に行ったが、行く意味があるのかと考え始めた。

やりたい事もないし、就きたい仕事もない。


それに気掛かりな事が1つ。

母親が亡くなってから、父親は変わってしまった。

仕事には行くものの、帰宅すると大量の酒を飲んでいた。


兄が止めるように促すも、聞く耳を持たなかった。

骨壷を抱き締めながら、「どうして俺も連れていってくれなかったんだ…」と、涙ながらに口にしていた。

そんな父親を見るのが辛かった。


ある時、父親に大学を辞めたいと話してみた。


「辞めたいなら辞めればいい」


薫の話に、然程興味がないようだったが。


「辞めるなら結婚しろ。

 丁度見合いの話もきてる。

 その人と結婚しろ」


いくら何でも横暴だ。

結婚は自分の意思でしたい。

そもそも、まだ結婚なんてしたくもない。


「子供は黙って親の言う事を聞いてればいいんだ。

 近い内に食事会を設ける」


吐き捨てるように言われた。

何を言っても聞き入れてもらえなかった。


兄に話すと、父親を殴り付けた。

兄は泣いていた。

拳を握り締めたまま、父親を見つめながら。

父親もまた泣いていた。


今まであった家族が、家庭が壊れていくのを目の当たりにした。

それと同時に、父親に対する気持ちも薄れていった。


心に穴が空いたまま、塞がる事はなかった。

日々は静かに流れていくが、自分だけ置いていかれている気がして。


彼からは、もう連絡が来なくなっていた。

連絡が途絶えてから、1ヶ月が経っていた。


恐る恐る電話をしてみた。

出ないかと思ったが、出てくれた。

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