第15話

合宿で免許を取りたかったが、父親の許しが下りなかった為、近所の教習所に通う事になった。

夏休みという事もあり、人が多かった。


授業は退屈だったし、実技は怖かったが、慣れてくると面白かった。

母親とのドライブに、思いを馳せる。


何度目かの教習所で、男性から声を掛けられた。

背が高く、爽やかな笑顔で、女性にモテそうな人だなと思った。


たまに見掛ける人だった。

授業も同じ教室だった事もある。


「あの、良かったら、コーヒーでも飲まない?」


缶コーヒーを出された。

受け取るべきか、どうするべきか悩んでいると。


「あ、握りすぎて温くなっちゃった!

 ごめん、新しいの買ってくる!」


思わず笑ってしまった。

買いに行こうとした彼を止め、温くなった缶コーヒーをいただく事にした。


彼は1個年上で、働きながら教習所に通っていると言っていた。

どうして自分に声を掛けたのかと尋ねると、『コーヒー好きそうに見えたから』

その言葉に、また笑ってしまった。


男性と関わったのは、これが初めてだった。

連絡先を交換し、他愛もないメッセージのやり取りを楽しんだ。

教習所に来れば彼に逢えるし、それが楽しみにもなった。


真面目だが何処か抜けていて、そこがまた好きだった。

初めて好きになった人。

トキメキを知り、家族とは違う特別な想いを知った。


無事に免許を会得し、教習所に通う事はなくなったが、彼との連絡は途絶える事はなかった。

彼も仕事をしていたし、自分は大学があるから、なかなか逢う事は難しかったが、それでも彼と繋がっている事が嬉しかった。


「最近また綺麗になったね。

 彼氏でも出来た?」


ふと、母親に言われ驚いた。

母親は何でもお見通しのようだった。


どう答えていいか解らずにいると、母親はそれ以上は何も言わず、優しく微笑んだ。

大切な人が出来ても、母親が最優先な事には変わらない。



時は流れ、薫は二十歳となった。

母親は既に着物は頼んでおり、前撮りも済ませてある。


成人式の日。

朝から着付けやら、美容室で髪を整えてもらったりと忙しかった。

式場で茜と落ち合い、久し振りの再会を楽しんだ。


茜は同窓会に参加をするが、薫はしなかった。

彼が式場まで迎えに来てくれ、自宅まで送ってもらった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る