第12話

高校2年のある時。

母親の体調が優れない日々が続き、病院に行くと検査をする事に。

元々体はそこまで強くない母親だった為、日頃の疲れが出たのだと思っていた。

だが、その考えが愚直であったと気付くのは、検査の結果が出てからであった。


検査の結果を聞きに、家族と病院に向かった。

父親と母親のみが、診察室へと呼ばれた。


廊下の椅子に座りながら、兄と2人が出てくるのを待つ。

お互いに会話もないまま、時間だけがゆっくりと過ぎていった。


30分くらいしてから、やっと2人が出てきた。

父親の瞳は赤く、母親は困った笑顔を浮かべていたのを覚えている。


無言の帰宅。

母親はそのまま部屋へ行ってしまった。

残された3人は、いつも食事をする時に使うテーブルの椅子に座る。


無言は尚も続く。

ちらりと父親の顔を見ると、酷く思い詰めたような表情をしていた。

悲しみ、怒りが混ざったような、複雑な心境を表していたように思えた。


いてもたってもいられなかった薫は、お茶を淹れる事にした。

立ち上がり、キッチンに向かうと、それぞれのマグカップを取り出し、急須に茶葉を入れていた時だった。



「お母さん、末期がんだそうだ」



ポツリと父親が言った。



「もって1年だそうだ」



頭を強く殴られたような衝撃。

持っていた茶筒を落としそうになった。



「胃がんで、他にも転移があって…。

 若いから進行が早くて、もう…手の施しようがない…そうだ…」



涙声。

つまりづまり、やっとの思いで言葉を口にしていた。



「お母さんは、入院はしないと決めた。

 最期は…この家で迎えたいって…。

 薬を飲みながら、頑張るって…」



父親が泣いているのを、初めて見た。

いつも明るくて優しい父親が、声を殺しながら泣いている。


今までの話を聞いていた筈なのに、話の大きさに驚き過ぎて、心がついていけていなかった。

気付けば兄も泣いていたが、薫は状況を呑み込む事が出来ず、呆然としたままだった。


それから生活は、少しずつ変わっていった。

母親の負担をなくす為に、家事をやってもらう家政婦を雇った。

母親がキッチンに立つ事はなくなった。


自分達の学校生活に支障はなかったが、学校に父親から母親が亡くなったと連絡がくるんじゃないかと、心配でたまらなかった。

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