第11話

自分の心の温度を計れるなら、計ってみたいもんだ。


薫はそんな事をたまに思う。

が、思うだけでそこまで深く考えてはいない。


1LDKの部屋で独り暮らし。

家を飛び出したのは、今から数年前の事だ。


世間の誰しもが羨む家庭に生まれ、何不自由なく生きてきた。

綺麗で優しい母親。

仕事熱心だが、家族との時間を大切にしていた父親。

少々やんちゃだが、妹思いな兄。

そして自分。


小学生までは一般の学校に通っていたが、中学は受験をする事になり、県内でも有名なお嬢様学校に通う事になった。

今まで友達だった子とは疎遠になり、世間をあまり知らない子達の中に混ざる事となる。


休み時間は、決まってお家の自慢や、許嫁の話、お稽古事の話ばかりで退屈だった。

薫もいくつか習い事をしていたが、それは自分の意思で習った訳ではなく、父親の勧めだった。

習い事は嫌いではなかったが、好きにもなれなかった。


『女性は華のように、美しく淑やかに』


学校の仕来たりは古くさく、所謂大和撫子を掲げるようなところだった。

少しでも品のない行動を取れば、先生からありがたいお説教を受けてしまう。


お嬢様ばかりだが、中には自分と同じような感覚の子がいた。

それが茜だった。


学校が終わり、お迎えの車に乗り込む。

本来学校が終わったら、自宅で勉強に励まなくてはいけないのだが、帰宅して着替えると、茜と街へ出向いた。


茜は明るくて、優しい。

薫の家よりも厳しかったが、親の隙を見つけては家を抜け出し、薫とよく遊んでいた。

薫の家に泊まりに来る事もあり、家族は茜を迎え入れてくれた。

茜の両親から連絡がきても、母親が上手くあしらってくれていたのは幸いだった。


薫の母親は子供が好きで、結婚する前は幼稚園の先生をしていたそうだ。

友達の紹介で父親と出逢い、数年の交際期間を経て結婚。

当初は周りから、『玉の輿婚』と羨ましがられたと、母親が笑いながら話してくれた事があった。



薫の学校はエスカレーター式だった為、高校に上がっても茜との付き合いは継続された。

受験して入ってきた子達もちらほら見られ、友達も増えていった。

校則は相変わらず厳しかったし、窮屈なところもあったが、それなりに学校生活を楽しんでいた。

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