第10話

「石油王かあ。

 なかなか難しいんじゃない?

 それに一夫多妻だったら、1番に想ってもらえるか解らないよ?」


「そうなんだよねえ。

 生活には困らないだろうけど、愛情面が欠落しそう…。

 それに他の奥さんとも共同生活なんて無理だし。

 あ~あ、どっかにいい人いないかなあ」


最近この言葉が口癖になっているな、と美鈴は思った。

自分が求める人が本当にいて、想いが結ばれ、一緒になれたら、そこにはきっと自分が思い描く幸せがあるのだろうか。

形のある幸せを求めすぎて、から回ってしまうのも否めない。


「しのちゃんは結婚したいとか思わないの?」


「ん~、あんまり考えた事ないなあ。

 家族からは早く結婚しろって言われるけど、今はこうやってお店を切り盛りしてる方が楽しいし」


「そっかあ。

 ちなみに付き合ってる人はいるの?」


興味と好奇心が混ざった瞳で、しのぶの返答を待つ。


「さてさて、どうだろうね~」


にこやかにあしらわれてしまい、美鈴は口唇を尖らす。


「ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃんか~」


「や~だよ、プライベートは秘密にしてる方がいいじゃない」


「あたしなんて、しのちゃんに絶賛大公開なのに」


「鈴ちゃんが自分から大公開してるんじゃない」


そう言って、しのぶは大きく笑う。


「しのちゃんは、あたしのどんな話もちゃんと聞いてくれるから話すんだよ。

 ゆいなんて、あたしの話に飽きてくると、話の途中なのに『そんな事よりさ~』って話変えちゃうし」


「あはは、ゆいちゃんらしいや。

 ゆいちゃんは良い意味でマイペースだからなあ」


笑いすぎて喉が渇いたのか、グラスに残っていた水割りを飲み干し、新たに水割りを作り始める。

グラスに氷を入れていると。



「しのちゃんが男の人だったら、あたしは間違いなく結婚するのに~」



その言葉を聞いた瞬間、しのぶは驚いた表情で美鈴を見た。

目と目が合うも、言葉がないまま僅かに時間が止まる。


「じょ、冗談だよ~」


慌てて両手を左右に振りながら、誤解を与えてしまった事を謝罪する。

ハッとしたしのぶは、苦笑いを1つ。

刹那、寂しそうな顔をしたが、美鈴が気付く事はなかった。

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