第9話

炒飯のいい匂いがしてくれば、お腹の虫も反応する。

先程よりも空腹感が強くなり、炒飯が出来上がるのを待つ。

ビールを飲んで空腹を抑えながら、こちらに後ろ姿を向けているしのぶを見てみる。


気配り上手だし、優しいし、他愛ない話でさえちゃんと聞いてくれる。

こんな人が彼氏だったら、自分はどうなってただろう。

ふと、そんな事を思う。


「はい、お待ちどうさま」


炒飯が盛られた皿とレンゲを受け取り、手を合わせていただきますをして、一口頬張れば疲れも吹っ飛ぶし、美味しさで顔がとろける。


「んふ~う、うま~い!」


店内に客がいなくて良かった。

思ったよりも、大きな声を出してしまった。

そんな美鈴を見て、しのぶはけらけらと笑う。


「炒飯食べてそんなに喜ぶ人、初めて見た」


「こんなに美味しい炒飯食べて、喜ばない人なんていないよ。

 パラパラだし、味付けも丁度いいし、毎日食べても飽きないもん」


「お褒めいただき光栄だよ。

 ワタシも1杯飲~もお」


「飲んで飲んで~」


慣れた手付きで焼酎の水割りを作ると、美鈴と乾杯をしてから飲んだ。

そして、グラスを置くと、煙草に火をつけて吸い始める。

なるべく美鈴の方に煙がいかないよう、注意を払いながら。


「あたしは煙草の煙は大丈夫だから、気にしないで平気だよ」


「ご飯食べてるのに、煙の匂いがしたら残念な気持ちになるでしょ?

 あ、鈴ちゃんが食べ終わってから吸えば良かった。

 ごめん、気が回らなくて」


「しのちゃん、気にしすぎ~」


些細な事でさえ、嬉しく思う。

が、たまに気にしすぎるところを垣間見ると、『そんなに気を遣わないでいいのに』と、逆に心配になってしまう事もしばしば。


食事を終え、酒を再開する。

美鈴の他にも客が入ったが、大抵しのぶは美鈴についている。


あれこれ話していると、美鈴が先日別れた男の話になった。

この店で元カレと出逢った為、しのぶも元カレの事は知っている。


「…とまあ、こんな感じ別れました」


「怒涛の勢いだなあ。

 まあでも、またきっと新しい出逢いがあるって。

 鈴ちゃんなら、いい人に出逢えるよ」


「石油王と出逢えないかなあ」


美鈴の話を聞いて、しのぶは笑いを抑えきれなかった。

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