第7話

事務所の女性陣は、既婚者は半分くらいか。

中にはバツがつく人もいらっしゃる。

いろんな事情を抱えている。


「美鈴ちゃんはいくつだっけ?」


「もう少しで26になります」


「いいなあ、若いなあ。

 私も20代だったら、もっとグイグイいくのに。

 ちなみに、薫ちゃんは28なんだって。

 20代前半に見えるから羨ましいなあ」


歳を重ねていく程、若さが羨ましくなる。

肌も違うし、体型も変わっていく。

老いる事は誰しもが通る道だが、抗って美しくいたいのは女性特有の性かもしれない。


「きっと薫ちゃんからしたら、美鈴ちゃんは妹みたいな感じなのかも」


そんな風には思えないけどな。

笑いながら聞き流す。


彼女の事が好きか嫌いかと問われれば、『どちらでもない』

無論、恋愛のそれではない。


嫌いではない事は確かだが、掴み所がないというか。

あの優しい笑顔さえ、防御壁のように思える時もある。

案外、警戒心が強いのかもしれない。


「私も薫さんみたいな、優しくてイケメンな彼氏欲しいなあ。

 薫さんと付き合えたらいいのに」


たまにこういう言葉を耳にする事がある。


「な~に言ってんの。

 薫ちゃんはイケメンだけど女の子じゃん」


「男でも女でもいいの。

 きっと薫さんは、優しくしてくれると思うし~」


優しくしてほしいだけなのだろうか。

深いところは解らない。


「今付き合ってる彼氏さ~、デリカシーもないし、私の事母親か何かと勘違いしてるところがあってさ。

 ちゃんと女として見てくれてないから、たまにめっちゃムカつく~」


付き合いが長くなると、そういう事があるらしい。

美鈴は自身が付き合ってきた人を思い返してみると、確答する人物が1人いた事を思い出す。


『飯は手作りがいい。

 母親の味をちゃんと再現して。

 家事は女がやるもんでしょ?』


付き合い始めて少ししてから、そんな事を言われた。

どうして『彼女』として見てくれないのか。

やってくれる事が当たり前と思うのは何故か。


気持ちは静かに冷めていき、別れるのに時間はかからなかった。

すがってきたが、情けなくて殴る気も失せ、『母親と結婚したら?』と捨て台詞をして帰った事を思い出す。


思い出すんじゃなかったと、苦虫を噛んだ表情をしながら溜め息を1つ溢した。

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