第6話
普段はバイクで来るのだが、荷物が多かったり天気が悪い時は軽トラでいらっしゃる。
荷物は小さいものから大きなものまで様々だ。
取引先の会社に保管スペースを借りていて、置ききれない荷物はそちらに置かしてもらっている。
注文が入ると、そちらに勤めている彼女が運んでくれるのだ。
彼女の名は、横山薫。
独身(らしい)
プライベートな事は、あまり知られていない(らしい)
美鈴が入社する少し前から、会社に配達をするようになったそうだ。
階段を上がってくる足音。
事務所内の美鈴を除いた女性陣達を見れば、いつの間にか取り出した鏡で、身だしなみのチェックをしている。
毎度の事ながら大袈裟だなあ、と美鈴は思う。
「おはようございます」
事務所のドアを開けながら挨拶。
その笑顔は、今日も眩しすぎるくらいに輝いていた。
「薫さん、おはようございますっ」
いつもとは違う、どっから出しているのか解らないくらいの綺麗な声で、女性陣達は薫に挨拶をしていく。
課長(殿方)や部長(殿方)に対して、こんな声を出してるところは、残念ながら見聞きした事はない。
「おはよ、リン」
殆どの人は美鈴の事を、「美鈴ちゃん」か「鈴ちゃん」か苗字で呼ぶのだが、薫だけは美鈴の事を「リン」と呼ぶ。
「おはようございます。
薫さん、どうしてあたしの事をリンって呼ぶんですか?」
「リンって、頭を振ったらリンリン鳴りそうだから」
笑顔を絶やさぬまま、さらりと小ばかにされる。
「何であたしの頭がリンリン鳴るんですか!
鳴りませんから!
てか、さりげにあたしの頭がすっからかんって言いやがってます!?」
吠える美鈴の反応を見て、薫は楽しそうに笑う。
「ほら、頭が良くなる飴あげるから許して。
あと、早く受領書にハンコ押してくれる?」
「誰がバカだ、誰が!」
引き出しからハンコを取り出し、バンっとハンコを押す。
「ありがと。
ほんじゃ~ね」
美鈴の手に飴を渡すと、彼女は帰って行った。
それと同時に、女性陣達から大きな溜め息が零れる。
「あ~あ、癒しが去って行ってしまった…」
「いっそうちの会社で働いてくれればいいのに」
「ははは、そんな事は出来る筈ないだろう」
女性陣達の話を聞いていた、山本部長が笑いながら口を挟む。
「じゃあ、部長と薫さんをトレードして下さい」
ある女性に真顔で言われた部長は、漸く自身が地雷を盛大に踏んだ事に気付く。
「あ、ははは~、ちょっとトイレ行ってくるね~」
気まずい雰囲気に耐えられなくなった部長は、青ざめた笑顔で事務所から逃げ出したのだった。
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