第4話
父親が乗っていた車は、殆ど原形がなかった。
救急車や消防車が現場に到着し、ひしゃらげた車内から救出されたものの、すぐに死亡が確認された。
即死だった。
バックシートには大きな花束があり、それが母親へ贈るものだった。
毎年恒例の2人の結婚記念日に、父親は必ず母親に花束をプレゼントしていた。
その年も例年通り、父親から手渡せる筈だったのに、それはもう、永遠に叶う事はなくなってしまったのだった。
3人での生活が始まった。
貯金があったのは幸いだったし、母方と父方の家族の支援もあった。
人並みの生活が出来たのは、本当に救いだった。
母親は根性の座ってる人で、心の器が大きく、父親同様優しい人。
子供の前では、決して弱音を吐かなかった。
まだ小学生の子供を、何とか育て上げなくては。
その気持ちを胸に、がむしゃらに踏ん張り続けた。
父親が亡くなってから20年が経つが、未だに母親は独り身だった。
再婚を勧めたが、いつも笑って「あたしの旦那は和明だけだから」
今も変わらず、父親を愛している。
そんな母親が好きだし、心から愛する人に出逢えた母親が羨ましくもある。
自分もいつか、両親のような家庭を築きたい。
笑いが絶えない日々。
自分を大切にし、愛してくれる人と共に生きたい。
そう強く思うのだった。
「結婚だけが全てじゃないと思うけどね。
アタシも会社のお局から、早く結婚した方がいいわよって言われるけど、大きなお世話だよって思う。
既婚者はどうして、やたらと結婚を勧めてくるんだか。
自分の幸せは自分で見つけるっつ~の」
ふ~っと息を吐く音。
ゆいが煙草を吸っていて、煙を吐き出した音と気付く。
「女の幸せが結婚だけじゃないし、結婚がゴールじゃないのも解ってるんだけどね」
結婚だけに執着している訳ではないのだが…。
しかし、やはり周りを見渡すと、羨ましさが出てくるのもあるのだ。
「美鈴は周りが羨ましいだけなんだよ。
そんなんじゃいつまでも結婚出来ないし、たとえ結婚したとしても納得出来ないかもね。
とりあえず、またいい人を探さんと。
あ、ほら、美鈴の会社に来る王子様がいるじゃん」
新しく持ってきた缶ビールを開け、飲んだ瞬間に予想外のゆいの発言に美鈴はむせる。
「イケメンで優しいんでしょ?
身近にいい物件あるじゃん。
あとは飲み屋のしのちゃんとか」
「適当な事言ってんじゃねえ!」
騒がしいまま、電話は夜中まで続いたのだった。
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