第3話

「で、彼をぶん殴ってどしたのさ」


電話口から、笑いを堪えている美鈴の親友・ゆいの声が聞こえる。


「ふざけんじゃねえって怒鳴った」


缶ビールをグイっと飲み、息を零す美鈴。

ぶはっと笑いが聞こえてくるも、美鈴はそれをスルーする。


「あ~、安易に想像出来るわあ。

 ほんでどしたん?」


「『何が結婚してもいいだ、この野郎!

 上からもの言ってんじゃねえぞ、こらぁ!

 セックスの事ばかり言いやがって!

 おめえはあたしを『彼女』として抱いたんじゃなく、自分の性欲満たす為に抱いてきたんだろうが!

 あたしはてめえの性欲処理マシーンじゃねえんだよ!

 ミジンコみてえな脳みそで、ちったあ考えろや!

 あたしはなあ、ちゃんとあたしを大事にしてくれる人と未来を歩きたいんだよ!

 何1人でおセンチな気持ちに浸ってやがる!

 1mmでも『プロポーズされるのかもっ☆』なんて期待したあたしがバカだったわ!

 別れたいだあ?

 んなもん、こっちからお願い申し上げるわ!

 つむじから禿げて、カッパ禿げってみんなからバカにされて生きやがれ!』って言って帰って来た」


ゆいの笑いは大きくなり、言葉通り大笑いとなる。

ひとしきり笑った後、無言でいる美鈴に声を掛ける。


「まあでも、美鈴の言い分は解るな。

 確かに『彼女』として抱かれたいわな。

 大事な行為な訳だし」


ふう、と美鈴は溜め息を1つ。


「なかなか解ってもらえないんだけどね。

 あ~あ、やっと結婚出来ると思ってたのになあ」


缶ビールを飲むも、先程より温くなっていたから、残りを一気に飲み干した。


「美鈴は結婚願望強いよね。

 そんなに焦らんでもいいじゃない」


「いやさ、周りの友達とかが、どんどん結婚してくのを見ると羨ましくなるというかさ。

 あたしも母ちゃんみたいに、すげ~いい男と結婚して、幸せな家庭を築きたいというか」


母親、父親、美鈴、妹の4人で、毎日幸せに暮らしていた。

優しくて、時に厳しい時もあったが、いつも笑顔を絶やさない、自慢の父親だった。


そんな父親と、突然の別れ。

父親が運転する車に、トラックがぶつかった。


トラックの運転手は携帯を弄りながら運転していて、対向車線からはみ出た事にも気付かず、クラクションの音に気付き、顔を戻した時には手遅れだった。

父親がハンドルをきって避けようとしたが、避けきれなかった。


トラックはスピードも出ていて、本当に一瞬の出来事だった。

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