第2話

「付き合ってるのに、セックスレスなのは辛いし…。

 だって、愛を深める為にする事だろ?」


男の話を聞きながら、美鈴は無言のまま、ゆっくりと顔を下に向ける。

愛を深める為の行為、だと?


「嫌だったり、痛かったなら、すぐに言ってほしかった。

 俺、気持ちよく出来てたかなって思ってたし、自信はあったし…」


そこではないだろう。

話がおかしな方向を向いていないかと思ったが、相手の言い分を聞いてみる事にしてみる。


「美鈴さ、俺と嫌々付き合ってたんでしょ?

 ごめんな、早く切り出せなくて。

 どうやったら美鈴を傷付けずに、別れを切り出せるか考えてて…」


2人の出逢いは、よく行く飲み屋。

カウンターで1人で飲んでいたら、1人で飲みに来た彼が隣に座り、酒の席もあり気付いたらどちらともなく話をしていて、話している内に意気投合して付き合う事に。


男は優しかったし、自分を大事にしていたと思うものの、どうしても受け入れられなかった事。

それは彼が言う「セックス」の事。


「美鈴には俺なんかよりも、他にいい人いるって。

 すぐにいい人に出逢えるよ」


月並みなセリフだな。

そんな事を思ったが、口に出す事はない。

美鈴は先程から黙ったままだ。


ずっと俯いてる美鈴を見て、男は泣いているのだと悟る。

やっぱり泣かせてしまった。

ごめんな、もう抱き締めてあげられないんだ。

俺だって辛いんだよ。


悲しみに暮れる男とは別に、美鈴は怒りがこみ上げてきていた。

どいつもこいつも、やっぱり同じなんだな、と。


「美鈴…」


切なそうな男の声は、美鈴には届いていなかった。

拳を握り締めながら、肩を震わせている美鈴を見て、男は苦しくなる。


駄目だ、抱き締めたら決心が鈍る。

お互いの幸せの為には、こうするしかない。

美鈴も子供じゃないし、きっと解ってくれる。


2人の間には、ほんの僅かな距離がある。

男が一歩踏み出せば、容易に美鈴と更に至近距離になる。

踏み出さなくても、手を伸ばせば美鈴に触れる事が出来る。


気持ちが揺れる。

別れを切り出したのは俺なのに。

最後まで傷付けてごめんな。

最後だから…だからこそ、せめて抱き締めるくらいは許されるだろうか…?


男は一歩踏み出すと、改めて美鈴を見る。

こんないい女をふる俺は、きっと大馬鹿だよな。

でも、これでいいんだ。


男は震える美鈴を抱き締めようと、両腕を広げ、自身の腕の中に彼女を収める…。




筈だった。




いきなり顔を上げた美鈴は、悪鬼の顔をしながら男を睨みつける。


あれ?泣いてるんじゃなかったのか?

てか、こんな顔見た事ないんだけど!?


ヤバい、逃げなきゃと思った男だったが、思った瞬間には美鈴の拳が男の右頬にクリティカルヒットし、男はゆっくりと後ろに倒れていったのだった。

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