第六章

第66話

第六章



「ま、ま、ま……待って! そんなすぐ!?」


 正面から亨の顔が近づいてきて、同時に背後からスカートを捲り上げられた。


「ほかの男に触らせておいて、なに言ってんだ」

「そうだよ、咲良。俺たち以外の匂いをつけるなんて、許さないよ」


 咲良は手を突っ張って、亨と距離を取る。が、ベッドの上で後ろから真にがっしりと抱えられていては、逃げることもできない。


「だって、だって……っ、帰ったばかりだよ!?」

「往生際が悪い。何年待ったと思ってんだよ」

「咲良は俺たち二人が好きだって言ったでしょ」


 たしかに二人を受け入れると決めたのは自分自身だ。


(でも、こんなすぐなんて思わないでしょ!)


 玄関に入ってすぐ、亨に唇を塞がれ、真にシャツを脱がされた。二人と交互にキスをしていると、頭の奧が痺れてなにも考えられなくなってくる。

 惚けているうちに寝室に運ばれ、今に至っている。


「そ、そうだけど。性急すぎない? ほら、話し合うこととかあるでしょ? お義父さんとお母さんになんて説明するのかとか……」


 なんとか思考力の鈍る頭を働かせるが、その間も口づけは止まらない。

 耳元で、ふっと息を吐くような笑い声が聞こえてくる。真は、欲情しきった声でぼそりと呟いた。


「父さんにはとっくに話してあるから安心して。たぶん咲良のお母さんも知ってるんじゃないかな?」

「知ってるだろ。あの人、孫は可愛い子が生まれるって、親父とはしゃいでたぞ」


 両親とも、亨と真の気持ちを知っていたとは。それでどうして咲良を日本に置いて海外に行けるのだろう。


(危ないとか思うでしょ、普通! しかも孫って)


 散々、男性は危険だと聞かされてきた咲良には、両親の危機意識の薄さが理解できなかった。今までよく無事でいられたな、と思うくらいだ。

 もしかしたら曽根山家で唯一、普通の思考を持っているのは自分だけかもしれないと考えて、諦めにも似たため息が漏れる。


「咲良が結婚してもいいって思ってくれたら、いつでも孫の顔見せてあげられるんだけどね」

「ま、まだ……いい、です」

「そう? 残念」


 さして残念そうでない真は、てきぱきと咲良のスカートを脱がして、ベッドの横に放り投げた。


「靴下穿いたままってエロいよな」


 亨に足首を持ち上げられて、足の甲を撫でられる。

 下着姿で二人とベッドにいるなんて。自分でもどうしてこんなことになったのか、信じがたい気分だ。

 本当にこのまま二人と身体を重ねてしまうのだろうか。

 未知への恐怖にぴくりと足が震えると、耐えきれないと言った様子で亨が笑い声を立てた。


「怖がってるところも可愛いけどな、お前が本当にいやならしないよ」

「これだけイイ男を十年以上待たせてるんだから、ご褒美くらいはほしいけどね」


 真は手近にあった布団で咲良の身体を包むと、背後から抱き締める。


「ご褒美?」

「そうだな……もうしばらくは待ってやる。だから、ちゃんとお前の気持ちを聞かせろよ」

「録音データももらってないからね。好きだって言ってくれるだけでいい」


 亨にも真にも、今までたくさん愛情をもらってきた。自分も帰していたつもりだったけれど、それはあくまでも家族愛だ。

 二人に好きだと言われたとき、嬉しかった。咲良が好きだと言うだけで、同じように喜んでもらえるのなら、と口を開く。


「二人が……好き。亨くんは意地悪でからかってばかりだし、真くんは怒ると怖いけど、それでも……そんな二人がいい」


 咲良は掛け布団から抜け出すと、目の前にいる亨に自分から口づけた。唇をそっと触れさせて、背後にいる真を振り返る。

 真の首に腕を回して抱きつくと、亨と同じようにキスをする。すると、腰を引き寄せられて、ベッドに押し倒された。


「んんっ」


 深い口づけを贈られ、身体の上を熱く火照った手のひらが滑った。

 どちらの手が触れているか、目を瞑っていてもわかった。口づけを繰り返していくうちに息が上がって、汗が滲んだ。


「咲良……いいか?」


 亨の低い声がずんと腰を重くする。


「いやなら言ってくれないと、引き返せなくなるよ」


 咲良の頬に口づけながら真が言った。


「いいよ。ちょっとだけ、怖いから……ゆっくりしてね」


 仕方がない、二人のことが大好きだから。

 室内に飾られた紫色のチューリップが視界に入ると、咲良は観念したように目を瞑ったのだった。



 了

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義兄たちの執愛に溺れてしまいそうです 本郷アキ @hongoaki

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