第63話

咲良が尋ねると、真の笑みが深まる。


「咲良、帰ろうか。今日は土曜日だしまだ時間も早い。朝までたっぷり話し合おうね。どこをどう触られたのか、俺たちにちゃんと説明して。マーキングし直さないといけないし」

「え?」


 なにやらいやな予感がする。笑顔なのに目の奧が少しも笑っていない。

 もしかしなくとも、ものすごく怒っているのではないだろうか。咲良は〝あっち〟の件も忘れて、口元を引き攣らせた。


(説明したら、なにされるの?)


 がっしりと腰を掴まれて、引きずられるように外に出された。車は近くのコインパーキングに停めてあるようだ。

 亨が運転席に座り、どちらが咲良の隣に座るかで揉める前に、咲良は後部座席に座った。


「あの……怒ってる?」


 後ろから声をかけると、二人同時に振り返った。


「怒ってるに決まってるだろ」

「咲良には怒ってないよ」


 そう言われて、安堵する自分がいた。二人が怒ってくれていることが嬉しいなんておかしいが。咲良が、男性と喋って、触れられたことに対して怒ってくれているとしたら、それはまるで嫉妬のようではないか。


「ふふ……」

「なんだよ?」

「どうしたの?」


 同時に聞かれて、咲良はますます笑いが止められない。


「亨くんと真くんって、恋愛的な意味で、私のこと、好きなんだね」


 そうじゃなきゃおかしい、とようやく気づいた。

 咲良が亨たちに近づく女性を想像してもやもやするのは、嫉妬しているからだ。彼らもまた嫉妬してくれているのなら、同様の想いでいてくれているということだろう。


「おま……そこからか。やっぱりまったく伝わってなかったな」


 亨ががっくりと項垂れた。


「好きに決まってる。恋愛的な意味でだぞ。しっかし、あれだけ何度もキスしたのに気づいてないってどういうことだ」


 真も目を見開いて、驚いた顔を見せる。


「妹だけど、俺はずっと女性だと思って見てきたって言ったでしょ? 好きに決まってる。男として咲良を抱きたいって欲求ももちろんあるから」

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