第62話

真は、咲良の両脇に手を差し入れて、上に引っ張った。真の顔には「楽しくなかったでしょ?」と書いてあって、思わず咲良は笑ってしまった。


「やっぱり……亨くんと真くんと一緒にいるのがいいな」


 咲良の答えに満足したように、真の顔に深い笑みが浮かぶ。腰を引き寄せられると、周囲から悲鳴のような声が聞こえてきた。


「もうわかっただろ? 咲良」


 亨の手の甲が頬に触れる。その手に安心してしまう自分は、きっと彼らから一生離れられないだろう。


「うん」

「じゃあ行くか。これ咲良の分。あと例のデータ送っておいてくれるか?」


 亨は知子の前に会費を置いた。

 例のデータが録音されたものだと気づく。


「曽根山不動産との合コンと引き換えですよ」

「合コン? ふざけるなよ。約束はちゃんと守らないとだめだろ?」


 亨の一段低くなった声が響く。細められた双眸と苛立ちを押し殺しているような声色が、彼の機嫌の悪さを物語っていた。


「ど、どういうことですか?」


 知子は肩を震わせながら、動揺を露わにした。


「ほかの男と喋って、なおかつ触られるなんて、許した覚えはねぇぞ」

「いや……でも、あれくらい……合コンですし」


 堀川と知子の顔が真っ青に染まる。

 いつも思うが、亨も真も勘が良すぎる。

 咲良が合コンの参加者である男性に話しかけられたことも、スカート越しに太ももに触られたことも知っているなんて。


「あれくらいって言った?」


 真の冷ややかな声もプラスされて、知子は「合コンはなしでいいです!」と叫んだ。


「今回はそれで許してあげる。まぁ、べつに録音もいらないしね」


 真の言葉に、咲良はほっと胸を撫で下ろした。

 知子のスマートフォンには、咲良の告白が録音されているはずだ。それを亨と真に聞かれると思うだけで顔から火が噴きでる思いだ。


「本当にいらないんですね?」

「いらねぇよ。咲良に聞かせてもらうから」

「それに、あっちの方はちゃんと残ってるしね」


 亨と真が顔を似合わせて、口元を緩めた。


「あっちって?」

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