第61話
「うそ」
「うそなもんですか。私だって彼氏ほしくて参加してるから、咲良にばかり構っていられないって断ったのよ? そうしたら、亨さんからも連絡があって、曽根山不動産との合コンをセッティングしてやるって言われたわ。でね、最終的にはこれよ」
「これ?」
知子がスマートフォンをテーブルに置いた。
アプリが起動し、なぜか録音中になっている。
「咲良がほかの男から逃げたら、会話を録音しておけって。そのときは意味がよくわからなかったんだけど、やっとわかった」
「つまりあれだろ? 咲良が、あの人たちを好きだって認めた瞬間を逃したくないってやつ」
「え、え?」
咲良は意味がわからず聞き返すが、二人の間で意味ありげな会話は終わってしまった。
「そうでしょうね」
知子はそう言いながら、録音を終了させた。
そして咲良の耳に顔を寄せてくる。
「咲良、このあと、二人に愛されちゃうと思うけど、大丈夫?」
にやりと口元を緩めながら言われて、頬が熱くなっていく。鈍い咲良にも、愛されるという言葉の意味くらいは察せられる。
「満更でもないって顔だな。俺、振られ損じゃん」
「あ……堀川くん、ごめ」
堀川に告白されたことすら忘れていた。
慌てて謝罪を口にするが、途中で遮られる。
「謝らなくていいから。最初からわかってたし。むしろ早くくっついてくれって思ってたんだよ。じゃなきゃ、協力なんてしないだろ?」
堀川が呆れたように言うと、出入り口付近が一斉にざわつき始める。
「まったく……来ると思ってたけど、タイミング良すぎじゃない? 全部聞いてたんじゃないでしょうね」
知子まで肘をついて、疲れた表情を隠そうとしない。
咲良が後ろを振り返ると、亨と真の二人がこちらに向かって歩いてくるところだった。時刻はちょうど二十一時。合コンの終了時間ぴったりだ。
ほかの男性と話している女性たちの視線も、突然現れた亨と真に釘付けだ。だが、彼らの視線は咲良にだけ向けられている。
「咲良、そろそろ時間だよ。合コン楽しめた?」
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