第54話

「そういえば咲良、お兄さんたち、説得できたのね」

「あ、うん……まぁ」

「なぁに? 歯切れ悪いじゃない」


 説得、というよりほとんど説得する必要がなかったのだが。嬉しいはずなのに釈然としない思いがあるからか、口が重くなる。うまく自分の感情を説明できる自信がなかった。


「ううん、なんでもない。ちょっと初めての合コンで緊張しちゃって。知子、彼氏ほしいって言ってたし、出会いがあるといいね」

「そうなんだけど、残念ながら今日は大仕事があるのよねぇ」


 知子が咲良をチラリを見ながら苦笑を漏らす。どういう意味だろうと頭を捻るが、ちょうど堀川が店を見つけたようで話題が移ってしまった。


「あ、あそこだろ」


 店は和食メインの居酒屋で、案内されたのは座敷だった。知子の友人である二人の女性が、こっちだと言うように手を挙げる。


「人数多いな」


 堀川の言葉に咲良も頷いた。

 一度に全員の名前を覚えられるだろうかと不安になってくる。


「そう? 四、四って合コンなら普通じゃない?」

「そういうもんか。俺もこういうの参加ことないからな」


 堀川は今まで合コンに参加したことはないようだ。どうして今回に限って参加したのだろう。


「堀川くんは彼女募集中じゃないの?」

「彼女っていうか、好きな人がいるだけ」

「それ……合コンに来てて大丈夫?」


 咲良が聞くと、堀川から乾いた笑いを返された。


「平気だよ、好きな人もここに来てることを知ってるから」

「ふぅん、そうなんだ」


 やはり、堀川が好きな相手は知子のようだ、と確信を得た。


(知子に彼氏ができちゃうかもって焦ったのかな)


 堀川は、好きな人が合コンに行くと知り、いてもたってもいられなくなったのだろう。それを少しだけ羨ましく思った。


「咲良、こっち座ろう。堀川は前に行く?」

「あぁ」


 堀川と知子がうまくいけばいいな、と密かに考えながら、咲良は知子の隣に腰を下ろす。

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