第50話
「え、そんなとこにっ? 恥ずかしい……」
以前と変わっていないように思えるのに、どこか以前と違うようにも思えて、それがなんなのかわからず戸惑ってばかりだ。
「咲良、来年のバレンタインは三人でどこかでデートしようか?」
「デート?」
「そう、料理は咲良任せになってしまってるからね。たまには美味しいディナーをごちそうするよ。あ、バレンタインだけじゃないな、誕生日もクリスマスもか」
「それって……いつもと同じでしょ? もちろん嬉しいけど」
たしか咲良の誕生日もクリスマスも、亨と真と一緒に過ごした記憶がある。
ホテルのディナーを予約してくれたのだが、亨も真も目立つため女性からの視線を集めていた。
「一緒じゃないよ。俺たちとそのまま朝まで過ごそうって誘ってるんだから」
「朝まで?」
年越しをするみたいにかな。そう考えているのが丸わかりだったのか、真が年越しと同じじゃないから、と言った。
「少しだけ想像してみて。俺たちに、唇だけじゃなくて、身体中にキスされたらどうする? いや?」
「身体中にって、兄妹で……おかしいよ、そんなの」
唇が震えそうになる。
おかしいと言いながらも、忌避感のない自分のこの感情がいったいなんなのかわからない。兄妹ならこれくらいは普通なのかと考えて、否定したいようなしたくないような感情に混乱してしまう。
「咲良は妹だし家族だけど、俺はずっと女性だと思って見てきたよ」
からかわれているわけではないだろう。
(女性だと思って見てきた……ってどういう意味なの?)
妹に対しての行き過ぎた溺愛だとばかり思っていたが、言葉の端々に以前とは違うなにかがある。
「チョコレートの匂いがすげぇ部屋に充満してる」
なんて返そうか迷っていると、亨がリビングにやってきた。
亨は、背後から咲良の手元を覗き込み、そのままうなじに鼻を埋めてくる。
「髪も同じだな、甘ったるい」
「亨く……っ、くすぐったい……」
亨が咲良に触れてくることなど珍しくもないが、彼との関係もまた以前とは少し形を変えている。
(違う……変わったと思うのは、私の気持ちだ……)
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