第49話

「わかりやす。どうせ真にキスでもされたんだろ」


 亨が喉奧でくっと笑い声を立てた。


「なんで……」

「散々キスされましたって顔してる。ほら、テーブルに運んで。熱いから気をつけろよ」

「うん」


 とろみのついたうどんはなかなか冷めず、冷え切った身体の芯がぽかぽかと温かくなってくる。

 食事を終えて、皿をシンクに運んだ。亨が同時に席を立つのを、手で制する。


「亨くんはいいよ。私が洗い物する」

「じゃあ俺、洗濯物畳んでくるわ。そうだ、お前らが買い物行ってる間に、いつもの花買っておいた。っても俺が選んだから適当だけど」


 女性たちのゴタゴタがあり、職場で買ってくるのを忘れたため助かった。


「ありがとう。あとで部屋に飾っておくね」


 目を向けた先、リビングのテーブルには大量の切り花が置かれていた。一応水につけてあるが、包装されたままであるのが亨らしい。ピンク、白、紫のチューリップはまだ蕾の状態だが、数日で花が開くだろう。


「咲良はそれ飾ってくれば? 洗い物は俺がやるから」


 真が腕を捲り、キッチンに立った。


「え、ほんと? ありがとう」

「咲良、このチョコ、もう溶かして準備してもいい?」

「うん、平気、すぐ戻ってくるから。じゃあちょっと行ってくるね」


 咲良は大量の切り花を持って、洗面所へ行く。

 切り花はすぐに包装を取り、綺麗な水につけてあげればかなり長持ちするのだ。ハサミで茎を斜めに落とし、よく洗った花瓶に入れる。

 咲良は、自室に紫のチューリップを飾り、玄関やリビングにも花瓶を置いていった。


「ごめん、お待たせ」


 リビングに戻ると、真がキッチンのタオルで手を拭き、湯煎のための湯を沸かしているところだった。


「いや、大丈夫だよ」


 刻んだチョコレートを湯煎で溶かしたところで、冷蔵庫から出したバターと卵黄を加えて混ぜる。薄力粉を入れ、しばらく冷蔵庫で生地を寝かせている間に、ブラウニーを作ることにした。


「チョコ、ついてる」


 溶かせたチョコレートなどを混ぜていると、真が小さく笑い、咲良の頬を指で拭う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る