第47話

車の運転が下手なわけでもないのに、咲良が助手席に乗っていると、たびたび咲良の手を握ったり、頬にキスをしてきたりとなにかしらを仕掛けてくるのが真だ。今日も同じだろうと思っていたのに、なぜか真は信号で止まっても、前を向いたままだった。


「私が怖いって言ったから?」


 咲良が言うと、真は苦笑しながら頷いた。


「そうだね。でも咲良……そんなこと言ったら、俺は期待するよ?」

「なにを?」


 真は口元を緩めると、試すような物言いで誰に聞かれているわけでもないのに声を潜める。


「してほしかったのかって」


 ふわりと微笑まれて、まるで図星を突かれたように頬が赤く染まった。

 車の中で真に構われず、少しだけ寂しいと思ってしまったのは事実だった。安全運転でと常々言っているのは自分の方なのに。隠していた胸の内を覗かれているような気分になり、咲良は窓の外に視線を向ける。


「ち、違うけど……っ、いつもと違うとどうしたのかなって思うでしょ?」

「昨日、たくさんキスしたからかな。これ以上触ると歯止めが利かなそうなんだよね」


 真が申し訳なさそうにそう言った。

 咲良の頬がますます紅潮していく。歯止めが利かないとどうなるのか、思わず想像してしまいびくりと全身が震えた。


(いや……でも、妹として溺愛してるだけでしょ……)


 たとえ口にキスをされたとしても、妹以上の感情があるとはやはり信じられない。二人はキスをした翌日だって、いつも通りだったのだから。


(私だけが……キスのこと、引きずってるみたいだった)


 気にしている自分がおかしいのか、と思った。亨や真にとっては、唇へのキスは頬へのキスの延長だったのだと結論づけた。


「ん……」


 指先で顎をするりと撫でられる。顎の下をくすぐられると、まるで猫にでもなった気分だ。耳から後頭部に差し入れられた手のひらが髪を撫でる。

 後頭部を強く引き寄せられて、顔が近づいてくる。

 思わずぎゅっと目を瞑ると、頬に唇が触れた。どうして頬なのかと、残念に思ってしまう自分に衝撃を受ける。


「口に、してほしかった?」


 反対側の頬にも口づけられる。

 真の甘い声が脳裏に響き、なぜか身体の深い部分に熱が灯る。うん、と言ってしまいそうになり、恥ずかしさに目の奥が熱くなった。

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