第四章
第46話
第四章
咲良が助手席に乗り込むと、真の運転する車がエンジン音を響かせながらゆっくりと駐車場から道路へと出る。
「咲良、今年のバレンタインはなにを作るの?」
運転に気をつけて、と口を酸っぱくして言ったからか、真の視線は前を向いたままだ。
「今年はチョコクッキーにしようかなって。二人とも甘いのあまり好きじゃないし、会社からたくさんもらってくるでしょ? チョコレートはビターを使うから甘くないよ」
「楽しみにしてる。今年は、会社からもらうチョコレートは断ろうと思ってるんだ」
「え、どうして? お返しが大変だから?」
「まさか。もともと受け取りたくなかったんだよ、知ってるよね?」
「あ、そうだった」
学生時代、二人は誰からのチョコレートも受け取らなかった。唯一例外だったのが、咲良だけだ。
しかし、働き始めてからは、どちらかと言えば義理の割合が多くなり、他部署との関係もあり受け取らざるを得なかったようだ。中には本命が混じっていて手紙が出てくることもざらにあるため、断るにしても大変だろう。
「俺たちには、咲良がいるからね」
「私、そんなに上手に作れないから。真くんの方が料理上手じゃない?」
「俺はこだわるせいで手際が悪いしね。洗い物も多くなるし。咲良みたいにテキパキできるのはすごいと思うよ。あ、なら今年は一緒に作ってみる?」
「それいいね」
「咲良は甘い方が好きでしょ。ブラウニーも作ろうか」
「じゃあ材料買わなきゃ」
真とスーパーに向かい、何日か分の食材と菓子の材料を購入する。荷物を車のトランクに積んで帰路に着いた。
信号が赤になり、停止線で車が停まる。ふと、運転席に座る真を見ると、彼の目がこちらを向いた。
「どうしたの?」
「今日は……珍しく構ってこないんだなって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます