第45話
真が声をかける。たしかに疑問だ。亨ですら、真の態度を見破れなかった。咲良を殊の外気に入っているようだと思ったのに。
「お兄ちゃんたち、笑ってるのに、笑ってなかったから」
真と顔を見合わせた。取り繕った笑みを看破され苛立ちが募った。だって仕方がないじゃないか。義母と咲良を嫌いだと正直に言えるはずがない。
上手く隠していたのに、どうして気づかないふりをしないのかと、咲良に対して当たり散らしたい気分になってしまう。
利発とはいえ、まだ十二歳。子どもだったのだろう。
「笑ってやってるだけ、いいだろうが……」
思いのほか、低い声が出た。
「亨……っ」
真が慌てたように亨を諭す。
わかっている。自分たちより咲良の方が幼いと。譲るべきだと。けれど、一度口を衝いて出た言葉は止められなかった。
「たしかに、俺らはお前が嫌いだし、お前の母親も嫌いだ。もともと赤の他人だったんだから仕方ないだろ!」
亨は取り繕うのをやめた。
気遣っても見破られるなら、嫌いなまま過ごしたっていいはずだ。その方が楽に決まっている。両親の前でだけ仲のいいふりをすればいいのだから。
予想に反して、咲良はそれを聞いても泣かなかった。
「うん……それはしょうがないね。でも、咲良ね。さっき、お兄ちゃんたちが来てくれて嬉しかったよ。一人でお留守番すること、多かったから」
嫌いだと言ったのに、なぜか以前にも増して懐かれてしまった。
真にだけ懐いているように見えたのは、亨が取っつきにくそうに見えたかららしい。亨がざっくばらんに話したことがよかったのか、どれだけ遠ざけてもついてきたし、なかなかにへこたれない女児に育っていった。
たまに構ってやるだけで嬉しそうな顔を見せる咲良を、可愛いと思いだしたのはいつからだったか。ほかの誰に向ける感情とも違っていると気づいたのは。
咲良は、亨と真のことを度の超えたシスコンと言うが、たしかに妹としても女としても、咲良以外は考えられない。
「俺たちの気持ちを、いつまでも家族愛だけだと思ってるんじゃ、困るよね」
亨が思い出に耽っていると、スマートフォンに知子と堀川の連絡先を登録し終えた上を見ながら言った。もしかしたら自分と同じように過去を思い出していたのかもしれない。
「そうだな」
亨は呟きながら、真と同じように咲良の部屋に視線を向けた。
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