第44話
「咲良、平気? どうしたの?」
真は、慣れた様子でベッドに腰かけながら聞いた。顔に貼りついた微笑みは、亨でなければ作られたものだとは気づかないはずだ。
「一人で……置いてかれたと思ったの」
「置いていかないよ。亨の部屋にいたんだよ」
「ううん、違うの。そうじゃないの……お母さんに、知らないところに置いていかれたの」
咲良がなにを言っているのか最初は理解できなかった。知らない場所に置いて行かれる夢でも見たのかと思っていた。
一緒に暮らし始めて一ヶ月は経つ。すでにこの家は咲良の家でもあるのだから、知らないところではないはずだった。
「お母さんがお仕事に行ったから、寂しくなっちゃった?」
亨は、真の言葉を聞いて、ようやく納得した。
咲良の母親は、父の秘書をしている。再婚や引っ越しのバタバタでしばらく有休を取っていたが、ようやく今週から仕事に復帰したのだ。
せっかく一緒にいられるようになったのに、母がまたいなくなってしまった、と感じたのかもしれない。
「寂しくなったら、俺たちが一緒にいるようにするよ」
真の言葉に亨も頷いた。
咲良は亨と真の顔を交互に見つめ、泣くのを我慢したようないびつな笑みを浮かべた。幼い子どもがする表情だとは思えなかった。
「でも……お兄ちゃんたち、咲良のこと、嫌いでしょう?」
咲良は俯きながら途切れがちに言った。
驚いた。まさかこれほど幼い咲良に、自分たちの感情を見破られていたとは思わなかった。沈黙が落ちて、自分も真もなにも言えなかった。
どれだけ時間が経ったか、我に返った真が言葉を探すようにして言った。
「そんな、そんなこと、ないよ。僕は、咲良が大好きだよ」
「そうだな……俺も、お前のこと、ちゃんと妹だと思ってる」
真が咲良の頭を撫でるのを見て、亨も手を伸ばした。額から噴きでる冷や汗を手の甲で拭い、誤魔化せていますようにと祈った。
「うそ、つかなくて、いいよ」
そのとき考えたのは、間違いなく保身だった。
父と義理の母にこのことがバレたら面倒だ。万が一、咲良が自分たちに嫌われているとでも漏らしたらどう誤魔化そうかと、そればかり考えた。
「咲良は、どうしてそう思ったの?」
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