第41話
(そんな兄貴がいるかよ……って何度言いそうになったことか)
真も同じようなものだ。
着替えをして部屋から出てきた咲良の首筋についたキスマーク。あれは真がつけたものだろう。
「でもいくらなんでも鈍すぎるだろ。スマートフォンの位置情報、俺らと共有されてることにもいまだに気づいてねぇぞ、あいつ」
「咲良はスマホほとんど使わないからね。クレカも持ってないし」
「気づいてたとしても、ふぅんで終わる可能性もあるよな」
「自分が恋愛感情を向けられるって思ってないから。ただ、亨がネットで買ったブラとショーツのセットをプレゼントしたとき、普通に喜んでるのは、さすがにまずいと思ったよ。もしかしたら男としてまったく意識されてないかもって」
正しく男としては意識されていなかったのだろう。ベッドに引きずり込み、勃った状態のものを臀部に押しつけても気づかなかったくらいだ。鈍いというか、頑なに自分の勘違いだと思おうとしているというか。
「まぁな」
咲良がここまで鈍く育ってしまったのも自分たちのせいだけに、誰を恨むこともできない。男は危険だから近づくなと言い含め、甘い言葉をかけて誘ってくる男はだいたい女を食い物にしているとクズだと嘯いた。そして咲良に近づき、ちょっかいかけてくる男を牽制しまくった。
自分たちのせいで女からの嫌がらせを受けていた咲良には、友人すら碌にいなかった。咲良を自分たちだけのものにするにはちょうどいいと思った。
恋愛系ドラマはいっさい見せず、そういった描写のある創作物からも遠ざけた。芸能人や創作物でさえ、咲良の目にほかの男を映したくなかった。
咲良が曽根山不動産ではなく、べつの企業で働きたいと言ったときも、もちろん最初は反対するつもりだった。自分たちの目の届かないところに行くなんて、許せるはずがない。
ただ、意思を封じ込め自由を奪ってしまったら、いずれ咲良が離れていくのではないかと怖くなった。咲良を失うことだけは自分も真も耐えられなかった。
誰かに奪われることを恐れ、そうやって長年、大事に大事に守ってきたのだ。結果、上手くいったと思う。
男の機微をまったく理解してはくれなくとも。
「たしか、咲良の同僚が主催者だったよな……その女を巻きこむか」
亨は顎に手を当てながら考えた。咲良の口からよく聞くものの、まったく興味がなかったため同僚の名前を思い出すのに時間がかかった。
「あいつ、堀川って男、咲良のこと狙ってるでしょ。そいつにもちゃんとわからせてやらないと。咲良が誰のものなのかって」
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