第40話

話を続けたら、自分に恋人ができてもいいのか、と聞いてしまいそうだ。


「でも、帰りは迎えに行くからね」

「そうだな、酒飲んで一人で帰ってくるのは危ないしな」


 いつも通りの二人なのに釈然としない思いがする。

 咲良は「わかった」とだけ答えて、買い物の準備を始めたのだった。


 ***


 車中で散々キスをした後、亨は何事もなかったかのように咲良に接した。そうしなければ、自分で自分を抑えられなそうだったのだ。

 亨は、リビングから二階に意識を向けると、咲良の部屋のドアが閉まったのを確認しテーブルについた。

 風呂から上がった真は、いつもの席ではなく、普段咲良が座っている正面の椅子に腰かける。


「で、どうする?」

「そうだね、たぶん咲良は、あれだけしてもよくわかってないだろうし」


 主語がなくとも通じるから真との会話は楽だ。双子だからと言ってしまえばそれだけだが、無駄なストレスがなくて済む。


「合コン……許したくねぇな」

「まぁね。咲良がほかの男に笑いかけてるところなんて、想像するだけでも虫唾が走る。でもさ……」

「あぁ」


 亨と真のため息が重なった。考えていることはどうやら同じらしい。


「咲良に気づかせるためには、一回くらいほかの男と会わせた方がいいんだろうな。許したくないけど」

「そうだね。このままじゃ、いつまで経ってもお兄ちゃんのままだしね。咲良がお兄ちゃんでいてほしいなら、それでもよかったんだけど」

「あいつ、俺らが兄貴のままで押し倒しても、受け入れてただろうからな」

「この関係がおかしいって気づいてくれただけよかったよ。職場の人にでも言われたのかもね?」


 亨はうっすらと笑みを浮かべる真を見つめて、ため息を漏らす。

 咲良は、亨にベッドに引きずり込まれても、身体に触れられても、抱き締められても、大した抵抗をしない。

 早く自分の気持ちを気づかせたくて、日に日に行動がエスカレートしていっているにもかかわらず、亨を兄だと呼ぶ。

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