第39話

「じゃあ、時間見て布団とか取り込んでおいてくれる?」

「わかった。そうだ……咲良」

「なに?」


 咲良が首を傾げると、亨はカップをテーブルに置いてから口を開いた。


「合コン、行っていいぞ」

「え?」

「だから合コン、行ってみたいんだろ?」

「あ、うん……そうなんだけど。本当にいいの?」


 昨日あれだけいろいろ言っていたのに、気が変わったのだろうか。あまりにあっさりと許可を出されたことに拍子抜けどころか、落胆してしまう。

 どうして咲良が落ち込まなければいけないのだろう。合コンに行きたいと言ったのは自分なのに。喜ぶところではないか。

 あれだけ、男は危険だと言い続けた兄二人が、揃って賛成してくれるのだから。


(やっぱり……恋愛感情じゃなかったってことだよね。合コン行ってもいいってことは、私に彼氏ができてもいいってことでしょ? 俺以外とこんなことしてみろ、とか言ったくせに……)


 簡単に行っていいと言われると、拗ねた気持ちが生まれてくる。合コンは無理だろうと諦めていたのに。


 ──俺たちから逃げようとするな。お前まで、裏切らないでくれ。


 あのときの亨の縋りつくような目は真剣だった。

 母親を求められているわけではないと思うが、咲良に恋人ができたら彼らを傷つけるのだと察した。だから真剣に考え、諦めたのだ。

 合コンに行きたかったはずなのに。

 どうにかして二人を説得しなければと考えていたのに。行くなと止めてほしいような気分になっているのは、どういうことだろう。


「真くんも、私が合コンに行くの、平気?」


 咲良はため息を押し隠し、おそるおそる顔を上げた。


「そうだね、今まで俺たちは咲良を束縛しすぎてたように思うんだ。咲良も二十四歳の大人になったんだから、危険を排除してばかりじゃだめだって気づいた。ほかの男性を知るのも大事なことかもしれないって、亨と話したんだよ」

「そっか……」

「どうしたの? やっぱり行きたくなくなった? それならそれでいいけど」

「ううん、そんなんじゃない! 行きたい! 行くから!」


 咲良はすでに「行きたくない」と思ってしまっている。それを隠すように慌てて首を振り、行きたいと連呼する。

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