第三章

第38話

第三章



 翌日、咲良は掛け布団をベランダに干し終えて、冷えた身体を抱き締めるように身体を縮こまらせ室内に戻った。

 美土里花園はビジネス街の一角にあるため、基本的に土日祝日は休みとなる。土曜日の今日は亨と真の仕事も休みだ。

 買い物に行って、バレンタイン用のチョコレートクッキーを作るため、材料を買ってくる予定だった。


「亨くん、そっちの掃除終わった~?」


 部屋数が多いため掃除をするのも一苦労だ。風呂だけで二箇所あり、トイレに至っては三つある。三人で手分けしなければ家事で一日が終わってしまう。


「終わった」


 ずぼらな亨もさすがに掃除や洗濯くらいはと考えるのか、自ら動いていろいろやってくれるため助かっている。


「じゃあちょっとお茶入れるね。コーヒー、紅茶、緑茶、二人ともなにがいい?」

「紅茶かな」

「俺も。牛乳入れて」

「わかった。座ってて」


 咲良はキッチンに立ち、やかんを火にかけた。三人分のカップを用意して、ティーポットに茶葉を入れた。亨のためにホーロー鍋で牛乳を温めておく。

 昨夜、部屋に戻ってきてからの二人はいつも通りで、なんだか咲良は拍子抜けしてしまったくらいだ。いつも通り過ぎてキスについて追求することもできず、なにがなんだかわからないまま、朝を迎えたのだ。


(なんか結局、いつもの延長みたいな気がしてきた……って、それがだめなんじゃないの?)


 今朝、亨を起こしに部屋に入ったとき、いつもと同じで頬にキスをされた。唇にされるかもと身構えていた自分が恥ずかしくて、すぐに部屋を出たくらいだ。

 真もまた、咲良を抱き締めてキスはするも、普段となんら変わりはない。


(もう……なんなの)


 やはり唇へのキスも、行き過ぎた家族愛が原因なのではないかと思ってしまう。咲良も兄たちが好きで拒絶できないからだめなのだ。

 ティーポットをテーブルに運び、一人分ずつカップに注いでいく。亨のはあらかじめ温めた牛乳をカップに淹れておいた。


「咲良、今日どこか出かける?」

「うん、買い物行きたい。バレンタインの材料と食材をちょっと買い足して。あ、お米もなかった」


 真に返事をしながらカップを傾ける。ベランダに出て冷えていたのか、カップを持つ指先からじんじんと熱さが伝わってきた。


「じゃあ今日は俺が車出すよ」

「真くん、安全運転でね」


 しっかりと釘を刺すと、真が苦笑しつつ頷く。


「わかってるって。咲良を見つめすぎないように気をつける」

「亨くんは? 買い物一緒に行く?」


 咲良は向かい側に座った亨にも話しかけた。荷物が多いときは、三人で行くことも珍しくない。


「いや、真が行くなら手は足りてるだろ」

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