第25話

だが、この機会を逃すものかと考えているのか、彼女たちは一歩も引かない。


「ひどいわ。これから買うかもしれないじゃない」


 女性の一人が堀川に詰め寄ったタイミングで、亨がその脇をすり抜けてくる。咲良を抱き締めるように手を回して、背中で蝶々結びにしているエプロンの紐を引っ張った。


「咲良、帰るぞ」

「え……」


 この状況で──? とは口に出さなかった。


 自分が話の中心になっていることに気づかないはずもないのに、亨は平然と女性を無視し続ける。

 ただ、これもいつものことだった。胃がキリキリするのだが、さすがに堀川に女性たちの相手を頼み、咲良だけ帰るわけにもいかない。


「堀川くんだっけ? 咲良を連れて帰っていいか?」

「はい、どうぞ。咲良、お疲れ」


 どうぞどうぞ、と手で出口を示されて、申し訳ない気持ちになる。

 女性たちは亨に向かってなんやかんやと喚いている。亨のようにそれらを聞き流せる胆力は咲良にはなかった。


「堀川くん、ごめんね」


 腕を掴まれ、亨に引きずられるように店を出た。


「いや、全然。むしろそっちの方が助かる。じゃ、また来週な」

「ほら、咲良帰るぞ」

「うん」


 このまま終わらないのでは、咲良の想像は悪い方にばかり当たる。

 咲良たちが店を出ると、案の定、女性三人組も揃って着いてきた。

 堀川が気前よく帰っていいと言ってくれたのは、亨がいなくなれば女性たちもいなくなると踏んだからだとようやく気づく。


「あの……っ」


 女性の一人が声をかけると、舌打ちと共に亨の低い声が耳に届いた。


「鬱陶しいな」


 咲良に向けられた怒りでないことは、掴まれた腕の強さからも伝わってきた。亨が女性たちになにかするのでは、という予感にハラハラする。


(これ……かなり怒ってるよね……殴る、とかはさすがにないと思うけど)


 咲良はそっと亨から目を逸らして、心の中で女性たちに、お気の毒様、と唱えた。


「ま、待ってください……お話を……っ」

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