第二章
第23話
第二章
十九時になり、閉店準備を進めていると、店の入り口に女性が立っていた。彼女の後ろにはさらに二人の女性がいる。
(あ、亨くんの出待ちしてる人たち……また来たのか……)
彼女たちは花を見る様子はまったくなく、視線はこちらを向いていた。
何度か店の前で見かけたことがあるが、亨が来ていないのに店に入ってくるのは非常に珍しい。
「いらっしゃいませ」
「あの、ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
「はい、どういったご相談ですか?」
純粋に花を買いに来てくれたのか、と嬉しくなる。花屋で働いていると、プレゼント用に贈る花束の相談を受けることが一番多い。そのため、どういった相手に贈るのかを聞き、場所柄や関係にあった花を選ぶ必要があった。
咲良は、花を買うお客様の話を聞くことがなによりも好きだ。喜んでほしいという相手を思う気持ちが伝わってくるから。
咲良が喜色を浮かべると、彼女はばつの悪そうな顔をしてぼそぼそと話した。
「相談じゃなくて、たまに来るあの人たちって、どっちがあなたの恋人なの? それと今日も来るか聞きたかったのよ」
客じゃなかったか、と一気に気分が落ちる。咲良はため息を呑み込み、過去に何度も答えてきたままに口に出した。
「恋人じゃなくて妹です。今日来るかはわかりません」
本当は咲良を迎えに来る予定だが、そう答えれば彼女たちがここで待っていることは確実だ。できれば亨が来る前にどこかに行ってほしかった。
「妹さんなのね! よかった~! ほら、だから言ったでしょ? この子とあの人たちが恋人はあり得ないって」
背後で耳をそばだてていた女性の一人が、甲高い声できゃあと叫びながら言った。
「あんなにかっこいいお兄さんが二人もいたら、束縛したくなっちゃうわよね~! 恋人みたいにベタベタしてるから、もしかしたらどっちかとって誤解しちゃったの、ごめんね」
「お兄さんたちも妹に慕われると悪い気はしないんじゃない? 迎えに来るくらいだし、二人とも優しい人なのかも」
「ね、お兄さんの名前教えてもらえない? お礼に花買って帰るからさ」
彼女たちは、咲良を味方につけようと判断したらしい。賢明ではあるが迷惑だ。
咲良が困っていると、花の水替えを行っていた堀川が女性客に近づいた。
「こいつのお兄さん、妹を溺愛してるんで、こいつにちょっかいかけてくる女が一番嫌いみたいですよ」
自分では言いにくいのだが、堀川の言うとおりだ。
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