第18話

「え、なに、突然。ようやく気づいたの?」


 知子に驚いたように言われ、こちらの方が驚いてしまった。


(ちょっと……ほんのすこーし愛情過多だなって思ってたけど……)


 亨と真のシスコンっぷりは異常だったのだろうか。今までは「あんなにお兄さんたちに溺愛されてて羨ましい~」と言われてばかりだったため、そういうものかとしか思わなかったが。


「気づいたって言うか……このままじゃだめかなって考えただけ。ねぇ、私に恋人ができれば、少しは亨くんたちも自分たちのことに目を向けるんじゃないかな! どう思う?」

「このままじゃだめ、ねぇ」


 知子は言葉を濁して、顎に手を当てたまま遠くを見た。


「え、なに、その顔。堀川くんはどう思う?」


 仕方なく堀川に視線を向けるが、なぜか苦笑を返される。


「私……亨くんと真くんの足枷にはなりたくないんだよ」

「つまり、恋人を作って、咲良自身もブラコンを卒業したいって?」

「そうすれば、亨くんと真くんにも、恋人ができるかもしれないし」


 咲良の言葉に知子が思案げに眉を寄せながら首を傾げた。まるで意外なことを言われたという顔をしている。


「恋人ができるかもって、今までだってあの二人なら選り取り見取りだったはずでしょ? 彼女の一人や二人いたんじゃないの?」

「それが……全然、女っ気ないの! 信じられないでしょ? 土日はほとんど家にいるし、出かけるときは一緒だし。しかも、女の人からの誘いを断るのに、私を理由にしてるみたいで。妹の世話があるからって。『妹さんいくつ?』って聞かれて堂々と『二十四歳』って返すんだよ!? もうお世話されるような年齢じゃないのに。私、絶対あの二人を好きな女性に恨まれてるよ」


 以前、亨が誰かと電話しているのを偶然聞いてしまったことがあった。

 部屋のドアが開いていて、自分の名前が出たから足を止めたのだが、そのとき「妹が寂しがるから、あまり家を空けられない」と言っていたのだ。

 しかも咲良をだしに女性の誘いを断っているわけではない、うそのない本気の声だった。


(寂しがるって……そりゃ何日も帰って来なかったら寂しいけどさ)


 亨が会社の飲み会にもいっさい参加しない理由を知ってしまい、複雑な気持ちになったのは言うまでもない。

 いつも仕事が終わると真っ直ぐに帰ってくる真も、おそらく同じ理由だろう。そう考えると、兄たちの恋愛の邪魔をしているのは自分だと思えてくる。

 だが、やめろと言ったところで、兄たちの妹溺愛は止まらない。やはり咲良が恋人を作るのが兄離れ、妹離れに繋がるような気がする。

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