第15話
「うん、たぶん定時。でも、また亨くん見たさで来店するお客さんが増えるかな」
咲良が働きだしてから、ちょくちょく亨か真が迎えに来るため、出待ちする客が数名いるのだ。
客のふりをしているが、亨が店に入ってくるのを見計らったタイミングで何度も現れれば気づかないはずもない。それは真のときも同様に現れる。
花そっちのけで、どこに住んでいるのか、名前を教えてと騒ぐため、営業妨害だと何度も訴えたのだが、悪びれなく何度も同じことを繰り返され辟易としていた。
「そうなのか?」
「気づいてるでしょ? いつも女性三人で来てるじゃない」
「いたかそんなの?」
咲良が言っても、亨は首を傾げるばかりだ。
本当に気づいてなかったらしい。
(あれだけあからさまにアプローチされて気づかないって……どういうこと?)
モテすぎて、感覚が麻痺しているのだろうか。
そうこうするうちに車は『美土里花園』の駐車場についた。
「いつもありがとう」
「あぁ」
店の裏側にある駐車場に車が停められると、亨が咲良のシートベルトを外す。
彼はなにも言わずに微笑みながら、咲良の唇に指でそっと触れた。行ってきますのキスをしろという合図だ。
「誰かに見られたらどうするの?」
「見られたって構わないだろ。家族仲が良くてなによりじゃないか。十年以上キスしてるんだからそろそろ慣れろよ」
慣れてはいるのだが、いくら頬へのキスだとしても、咲良を恋人だと誤解する人はいると思う。亨と真が女性と連れ立っているところなど見たことはないが、誤解されて困る相手は本当にいないのだろうか。
「わかったよっ、もう……はいっ」
咲良は身体を亨の方に寄せて、頬に軽く口づけた。
「いってきます」
「あぁ、気をつけて」
「うん、亨くんも仕事頑張ってね」
亨から頬にキスが返される。頬というより、やはり唇の端といったほうが近いかもしれない。
咲良は亨を見送り、唇の端に指で触れると、ため息をついた。
二人のシスコンぶりが本気で心配になる。両親が海外に行ってから、日に日に自分への愛情が増え続けている気がしてならない。
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