第13話
「たまには乗ってやれよ。あいつあれでいて咲良が乗ってくれないって凹んでるから」
「そうなの!? でも迎えに来てくれるときは乗ってるよ、怖いけど」
亨が苦笑しつつ頷いた。
「だから怖がられてるのに密かに傷ついてんだって。なんなら自分の運転のなにが悪いのかって俺に聞いてきたんだぞ……真に言うなよ?」
「うそ……」
「ほんと」
そんな真がちょっと可愛い。週末の買い物は助手席に乗ってもいいかなとほんの少しだけ思った。
「なぁ、話は変わるけど、俺を起こしに来たときと、服違うよな?」
本題はこちらだとでも言うように、亨にさらりと告げられる。世間話でもするような温度の声とは裏腹に、こちらを見る亨の目は真剣だった。
「あ……服ね、そうそう」
「なんで?」
運転席から伸びてきた手にブラウスをちょいと引っ張られる。
「やめてよ、襟が伸びちゃう」
亨の手を振り払おうとすると、ふいに彼の顔が首筋に近づいてくる。驚いて身を引こうとしても、狭い車内ではすぐにドアに背中がぶつかってしまう。
「なに?」
「真の匂いがする」
「亨くんまで!」
思わず、亨までペット願望が……と脳裏に浮かんでしまったのは致し方ない。双子のシンパシーなのか、単純に鼻がいいのか、互いの匂いを熟知しているのかは知らないが、今日はよく匂いについて言われる日だ。
それが発見できると楽しく、まったく違う性格なのに通ずるものもあるのだなと感心してしまう。
「あぁ、なに……真も言ってた?」
「うん。なんか変なこと言ってた」
「なんて?」
「うーん、なんか……犬? ペットになって飼われたいって」
仕事が忙しく疲れているのだろうか。亨も真も、仕事の疲れを家に持ち込むようなタイプじゃないからわからない。
二人とも、たとえ三十八度の熱があっても、そうと気づかせないくらい我慢強い。そんなところばかり似ている。
咲良の心配を余所に、亨はあっけらかんと笑った。
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