第12話

(あとはお弁当を準備して……あ、真くんがやってくれたのかな)


 咲良の作った弁当は、持っていくだけの状態でテーブルに並べられていた。


「咲良、そろそろ出られるか?」

「うん……あとお弁当入れるだけ。あ、箸!」

「入れておいたよ。早く出ないと遅れるんじゃないの? 今日は俺が送っていこうか?」

「真くん、ありがと。でも大丈夫!」


 玄関先で手を振る真に「いってきます」と告げて、逃げるように亨の車に乗り込んだ。

 四人乗りのスポーツカーの助手席は、咲良の特等席となってしまっている。真との話を聞いていた亨が、含み笑いをしながら視線を向けてくる。


「なに?」

「いや……まだ真の運転怖いのかと思って」

「怖いよ!」


 真の勤務先も曽根山不動産で、亨と同じく車通勤である。それでも咲良がほとんど毎朝亨と出勤しているのには訳があった。

 就職したばかりの頃、例に漏れず、咲良がどちらの車で通勤するかで大変揉めたのだが『真くんの運転は怖いからいやだ』という咲良の一言で、亨の勝利となった。


「だって、ちょいちょい前見てないんだもん! いつ事故るかと思って」


 運転が下手なわけではないのだが、真の隣に乗っているとハラハラすることが多い。運転席からちょくちょく咲良の方を見るため怖いのだ。

 何度「前を見て!」と叫んだかわからない。咲良があまりにも怖いと言うからか、最近は気をつけてくれているが、乗るたびにどきどきしてしまうのは否めない。それを伝えると「吊り橋効果あるかなってね」と返され、ますます意味不明だった。


「いや、あいつあれでも、お前を乗せてるときはかなり安全運転だぞ」

「えぇ……じゃあ一人のときは?」

「知らね、俺も乗りたくねぇもん」

「心配になっちゃう。事故起こして怪我とかさ。でも真くんって違反はしてないんだよね……不思議」


 真の免許証を見せてもらったことがあるが、れっきとしたゴールドだった。

 運転しているところをよくよく見ると、視線が咲良に移るだけで安全運転ではあるのだが。


「まぁ、事故起こすようなヘマはしないだろ」

「ならいいんだけどさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る