第5話
咲良の母との再婚がきっかけで小学二年生の頃に家族になったものの、初めは亨にも真にも嫌われていたと思う。母に気を使わせないために明るく振る舞っていた咲良は、気にしていない風を装い二人について回った。
おそらく二人も同じだったはずだ。両親の前では、新しく家族になった咲良に優しくしてくれたし、兄になろうとしてくれた。
ただ、三人になると、彼らの笑った顔が怒っているように見えた。
咲良は笑顔の中に隠れる嫌悪を感じ取り、それでも二人のそばを離れなかった。両親がいない場では、取っつきにくい亨と話すきっかけを作るのも大変だったくらいだ。
実際、亨の性格を考えれば、突然現れた義妹の面倒を見ろだなどと言われば煩わしいと思うに違いないのだが。
(それがなんで、こんな度の超えたシスコンになったんだっけ?)
家族になり十年以上の月日が経った今、気がつけば義妹を溺愛する兄になってしまったのだが、その理由はいまいちよくわからない。
(最初はお母さんに気を使って……だったけど、もともと兄弟のいる生活に憧れてたから、私はわりとすぐ二人のことを好きになったんだよね)
咲良がしつこく亨に話しかけていたからだろうか。もしかしたらそれで、いつのまにか家族愛に目覚めたのかもしれない。
「咲良。朝飯なに? いい匂いがする」
腕の中でじっとしていると、ようやく起きたらしい亨が言葉を漏らした。後頭部に手が差し入れられ、髪に鼻を埋められてすんすんと匂いを嗅がれる。
焼いたししゃもの匂いがついているかもしれないが、それをいい匂いだというこの義兄は、いつものことだがどこかおかしい。
「ししゃもと煮物。あとお味噌汁」
亨を待っていたため咲良は朝食がまだだ。腹がきゅるると音を立てて、恥ずかしさに身動ぐと、亨に髪を撫でられた。
「腹減った?」
「二時間も前から起きてるから、お腹も空くよ」
咲良の起床時間は午前五時。朝食と三人分の弁当を作るために、早起きをしなければならない。それを苦に思ったことはなくとも腹は減る。
「たまには真にやらせろよ。あいつ、お前の世話を甲斐甲斐しく焼くの好きなんだから」
たしかに真は、咲良が忙しそうにしていると率先して動いてくれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます