第3話

「さみぃ」

「きゃぁっ!」


 ベッドの中に引きずり込まれて、足を絡ませ抱え込まれる。咲良の顔は亨の胸に埋まってしまい、じたばたともがいても抜けだせない。


「またこうなる……ちょっと、私で暖を取るのはやめてってば! しかも、またパジャマのポケットにスマホ入れてるでしょっ? 足にあたるんですけど!」


 思いっきり手を突っ張るが、ぎゅうと強く抱き締められていては身動きが取れない。

 しかも、亨はなぜか、パジャマのズボンの中にスマートフォンを入れておくことが多く、こうして朝、抱き締められるたびに足に当たるのだ。


「アホか……ねむ」

「アホってなに!」

「スマホがアホ」


 完全に寝ぼけているらしい。言っていることが意味不明すぎる。今、話しかけても寝言に言葉を返すようなものだろう。

 亨は寝入ったままの状態で、掛け布団を引っ張り上げると、咲良と自分の身体にかけた。完全に寝る体勢である。


「あ~咲良、あったけぇ」


 自分で暖を取られるのもいつものことだが、服がしわになるため勘弁してほしい。まるで恋人のごとく抱き締められてはいるが、ほんの少し愛情過多な面はあっても、自分たちの間に兄妹以上のなにかはない。


(このぐだぐだっぷり……イケメンが台無し)


 亨の真っ黒のストレートの髪は無造作に寝乱れていて、声は掠れている。パジャマのボタンはほとんど留められておらず、胸元が丸見えだ。

 だが、日本人離れした彫りの深い顔立ちのせいか、だらしなく見えないのが本当に悔しい。荒々しい獣のようにどこか雄っぽさを感じさせる外見は扇情的で、仕事着であるスーツを着ると途端にストイックな印象へと変わる。


「いい加減にして! 起きて! ご飯できたから!」

「ちょっと黙れ。頭に響く」


 咲良が叫んでも、亨は一顧だにしない。うるさいと言わんばかりに咲良の頭を自分の胸に引き寄せてくる。


「毎朝これなら、もう起こしてあげない。自分で目覚ましかけてよ」

「かけてるけど、なんでか朝になると止まってんだよ」

「それは自分で止めてるんでしょ!」

「知らね……それより、あと五分寝かせろ」


 亨は寝る体勢に入ったまま、さらに腕を咲良の身体に回してきた。

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