第33話
なんっちゅー速さだよ、アイツ!!
この俺が追いつけない。
紫は母親の腹に運動神経を置いてきたんじゃないかってくらい運動音痴なのに。
「その自転車よっ、止めてー!!」
声に導かれるようにそっちを見ると二人乗りの自転車が猛スピードでこっちに走ってくる。
通行人達が止めようとしてるけれど止まらない。
そして海も。
こっちに向かってきているというのに止まることなく自転車に突っ込んでいく。
「海!!」
「退けーっ!!」
「邪魔すんなっ!!」
「人様の……」
「キャーーッ!!」
「ぶつかる!!」
「アンタッ避けっっ」
「物を何堂々と盗ってんだ、ボケェッ!!」
海が叫んだ。
「「「キャーーッ!!!!」」」
ぶつかる!!
そう思った瞬間、少しだけ、ほんの少しだけ海が横にズレた。
そして
ガッ……ゴォンッ!!
走っている自転車の前輪を蹴りで止め、そのまま足を振り抜いた。
オオオオィッ!?
「ハァアッ!?」
「嘘だろっ!?」
自転車から放り出される泥棒達。
倒れ滑っていく自転車。
「ギャーーッ!?!?」
泥棒達は見事地面に落下激突。
落下後も止まらずゴロゴロとアスファルトを転がり……やがて止まった。
辺りが一瞬静まり返る……も
ワァアアアッ!!!!
すぐに大歓声が上がった。
「海!!」
ようやく追いついた俺を見ることもなく、海は落ちたバッグを拾い泥棒達の元へ行くと
「あたしが居たのが運の尽きだったな」
痛がり悶絶している泥棒達をめちゃくちゃ見下ろしながらそう言った。
……クソ、カッコいいな。
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