第7話

男とそれこそキスが出来そうな距離で睨み合う。




「お前、咲坂紫だろ。自分の名前さえ忘れたのか?」




フンッと鼻で笑われる。



なるほど。



そうか、“アレ”と間違われたのか。



そうか……。




あたしは焚き火をするために用意していたチャッカマンで松明のように巻いた新聞紙に火をつけた。




「オイッ」




そして、こんもりと盛り上げた落ち葉にそれを放り投げた。




「何してっ」




バチバチと音がして、火が広がり大きくなっていく。




「あたしの名前は咲坂海だ。紫ではな……」




クッ……




「紫ではな……ゲホッ!!ゲホッ!!」




煙ぃっ!!



風向きのせいか、煙がめっちゃこっちに!!



目が開けられん!!



息が出来ん!!




「ゲホッ!!」



「何やってんだよ!?」




本当にな!!



少しカッコつけてみようかと思ったら大失敗。



ヤンキーどもが居なくて本当に良かった、です!!




ガッと手首を掴まれ、グイッと引かれモクモクと上がる煙から脱出。




「スーハーッ!!スーハーッ!!」




空気がこんなに美味しいとはっ。



思う存分、新鮮な空気を満喫していると……




顎を掴まれクイッと上を向かされる。




動揺して揺らぐ黒瞳と目があった。



まぁ、アッチ側咲坂紫があたしのことなど知っている訳ないか。



“アレ”は双子の妹が居る……ということさえ忘れているのではないか?



そういうあたしもこの男がその名を口にするまで忘れていたのだ。




「ケホッ!!」



「咲坂……海?紫じゃねぇのか」







「そうだ」






男の動揺っぷりに、今の双子の姉がほぼ同じ顔だとわかって……
























なんとも思わなかった。




「おーいっ。海ーーっ」




地佳が元気よく手を振ってくる。



やっと帰って来たか。




「本当に違うんだな……」




呼ばれた名を聞き、ボソッと呟く男。



しつこいな、コイツ。

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