第10話 他人の才を羨んでみても

「えっ? もう見えないんだけど?」

 ミリアが家の前で左右をキョロキョロと見回すも、ゴスロリの姿はない。

「なぁ、あの厚底でな~履くだけで時間掛かりそうやん? アレ履いて走っててんで

 ぇ、世界陸上目指せるんちゃうか?」

 猫(白虎)も驚く脚力である。

 PiPiPi…

「どこ?」

 ミリアいきなりDrキリコに雑に尋ねる。

「どこっ? 第一声が? バカの会話って単語なのよね…慣れなくてゴメンね」

「アイツ、どこ向かって走ってんだよ‼」

「あぁ…忍? あの娘に預けたの青龍じゃない、蛇ってね全身がセンサーみたいなもんらしいのよ、感知能力がゴイスーって感じなの」

「忍? アイツ忍? シータって言ってたじゃん」

「あだ名やな、ミリミリと一緒やん」

「ソレ認めてねぇから」

「でねミリミリ」

「呼ぶな‼」

「うん、嫌がるかなって確信があったから…でね、あの娘、シータ?解っていると思うけどメチャメチャ強いのよ」

「足は速そうだな…」

 ちょっとジェラなミリア。

「なんやミリミリ悔しいん?」

 顔に出ていたミリア。

「そうね、バカって強い弱いが基準だからね、悔しいのね他に勝負できるところがないからね」

「うっせぇ‼ 足が速いだけでモテるのは小学生までなんだよ‼」

「それ…男やろ? 女は容姿とか…いろいろモテ要素あるやん」

「可哀そう…モテたことないのね…成長しても貧乳だったしね、もう下着で飾らないと『いいね』すらもらえないX民みたい」

「なんの用なんだよ‼」

「あっ、つい面白くて忘れてたわ…残念だけどアンタのソレには青龍のような感知能力はないわ」

「どうりで…ワシ何も感じへんもん」

 前足を胸の前で組んで妙に納得している白虎、その名は『ハッカ』

「オマエ…ホント役立たずだな」

「うん、だからね位置情報共有しておいたから、スマホ見ながら追いかけなさいな、さすがにね、あの娘でも一人じゃキツイ相手なのよ『物の怪』は…」

「そこでワシの出番ちゅうわけやな‼」

「なんの自信だよオマエ…知らなきゃ人畜無害な変態の霊倒しただけじゃねぇか」

「……その自信やないけ‼ 全戦全勝やんけ、勝率100%や‼」

「オマエ…次負けたら勝率50%になるんだぞ解ってる?」

「まぁいいから加勢に行ってちょうだいね、猫の手でも無いよりマシよ頼んだわよ」

 プッツ…通話は切られた。

「ミリミリ行くで‼」

「とりあえず…サンダル履き替えてくるわ」


 サンダルを履き替え何を間違えたか陸上用スパイクを履いてきたミリア。

 もちろんトラック競技用だ。

「カチャカチャ煩いのぉ」

「走りにくい…」

「そりゃあアスファルトやもん…それトラック競技用やもん」

「なんか走り負けたくないなって…それだけ考えてたから」

「もう、そのへんの自転車借りようや、なんやいっぱい止まってますやん」

「それ泥棒だから」

「返したらええやん、そのカチャカチャが耳から離れんのや、もうアレやで、今晩、幻聴確定やん」

「………」

 そんなわけで自転車を無断拝借したミリア。

「よし‼こげミリミリ‼」

 カゴに入ってご満悦なハッカ。

「そういうとこネコなんだ…」


 モニターでクッキーかじりながら観ていたDrキリコ。

(自転車泥棒してるわ…あの娘、やっぱり軽犯罪のハードルが極端に低いわ、教育では修正できない天からのギフトね、ビッチの才能だわ)

 天使にあるまじき解釈。


 同時刻

 とんでもねぇ速さで走って現地へ到着したシータこと忍嬢。

「ハァハァ…走りにくかった…ハァ…」

「普通の靴にしたらいいのに」

「この服に…合う靴って…こういうのしかなくない?」

「まぁいいけどね…ところで視えてるわよね?」

「…視えてる…アレね…なんだろう…うなぎボール?」

 シータとニョロの視線の先にヌタヌタと無数のウナギが固まったような艶ありブラックな丸いナニカが蠢いている。

「霊じゃないわよシータアレは『物の怪』悪意を吸った神の残り香…」

「うん…ビジュがマイナスに爆発している…近づきたくない…」

「シータ、アンタ蛇系否定派?」

「ううん…ワーム系否定派…爬虫類は好き…鱗は好き…魚以外」

「そう安心したわ」

 とりあえずパートナーは爬虫類OKで安心した青龍ニョロ。

「じゃあ行くわよ‼」

「うん…武器化ウェポナイズ…スネークランス…」

「せめてドラゴンランスにならないかしら?」

「…ならない…蛇かわいい…から」

 ニョロの身体が光り、蒼く光る長い槍に変わる。

「ふふ…手触りがいい…ジョリザラしてる…」

 なんかご満悦なのかニターッと笑うシータ。

 シャンッと槍を構えて地面を厚底ブーツで蹴り突進する。

「ふふ…突き殺す…」

 ヒュンッと身体の前に槍を前に突き出すシータ。

 HITの瞬間にドンッと大地を力強く蹴り飛ばして『物の怪』を貫く。

 ズブッ…大した抵抗もなく槍を飲み込む『物の怪』

「ん?」

 あまりの抵抗の無さに首をかしげるシータ。

「シータ…まずいわ…」

 一度引き抜こうと力を込めて槍を引くシータ。

 それに抵抗するようにズブズブと槍は引き込まれていく。

「……抜けない…」

 槍を引き込まれてシータの眼前に黒いヌメヌメが迫る。

「……触りたくない…ニョロ…」

「アンタ、手を離さないでよ‼」

「……ゴメン…放しちゃった…」

「バカ女ーーーー‼」

 青龍ニョロ、槍化したまま『物の怪』に獲りこまれたのであった。

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