第5話 決戦前夜

 翌日も電車の外側に張り付き不浄なる霊はミリアを見ていた。

(ホントに見るだけで何もしないんだな…)


 メッチャ見てくる盗撮犯の不浄霊。

 2日目ともなると、もはや慣れてくる。

 ミリアも、なんとなく見返しているわけだが不思議と嫌悪感はなかった。

(なぜかしら?)

 ボヘーッとそんなミリアの登校風景を観ている天使キリコ。

 電話したいが、生憎と電車内で電源を切っているミリア。

「それはね…アンタがビッチだからよ」

 そう言いたいのだ。

 なんなら

「アンタ、今日も派手な下着で登校するのね、ホントに学校行くの? 違うトコ行こうとしてない登校じゃなくて出勤? 事務所に出勤? すでに予約入っている感じ?」

 とか言いたいのだ。

 カタンコトンと揺れる静かな電車内でミリアは決意した。

(やっぱ、アイツ狩ろう)

 嫌悪感もないのに狩ろうと決めたのは、なんか初戦の相手として、根拠はないが勝てそうな気がしているからだ。

 ミリアがビッチか否かは置いておくとして、年齢相応の羞恥心はないのかもしれない。

 狩るべき相手を目の前に決意を固めたのである。


 帰宅後…。

「狩るわよ」

「なにを?」

「なんか霊的なナニカ」

「ポイントがボヤけとるの~」

 カリカリをザラザラと皿に入れるキリコ。

「ん? どしたんや? 今日のカリカリ高いヤツやん…クリーミーなんが中に入ってるヤツやんか‼」

「そうよ、決戦の金曜日よ‼」

「オマエ…登校せんでえぇんか?」

「電車内でケリつければ大丈夫よ、うっかり長引いたときは遅刻よ」

「そう長引かんと思うけどな、ワシ白虎やしな、根拠はないけど自信はあるわ」

 なんか立ち上がってシュッシュッとシャドーを始める白虎。

 そして水飲み皿をひっくり返してスパーンッと狭い額を引っ叩かれる白虎。

 PiPiPi…

「なによ‼」

「ホント迷わずワタシだと確信してるのね…友達いないもんね可哀そう」

「今、忙しいの‼」

「忙しいってアンタ、水拭いてるだけじゃない」

「ソレを忙しいって言ってんだよ‼」

「知ってる? あのねハンズフリー機能ってのがあってね…」

「何の用だよ‼」

「うん、あのね、そろそろ、その猫…白虎に名前とか付けてもいんじゃないかと思ってね」

「猫って言いよったで…ワシ猫なん?実は猫なん?」

「名前…」

 ジロッと白虎を見るミリア。

「名前ねぇ…」

「そうよパートナーなんだからね」

「せやで、バディなんやからあだ名でもえぇで、ミリミリでええか?」

 濡れたタオルでグリグリと白虎の顔を拭くミリア。

「でねミリミリ」

「ミリミリ呼ぶな‼ バカ天使」

「ワタシ、バカじゃないのよ、ラボ見た? ドアに『Dr,KIRIKO』って書いてあったでしょ」

「死にたてだったもんで~覚えてねぇ~」

「アレかしら、魂だけじゃなくて記憶も抜けちゃったのかしら?事故のせい? それとも生まれつき注意力がないのかしら? そうね入学式にドンッですものね天然のバカなのねきっと」

「その、よく動く舌抜くぞ‼」

「あのね、話を戻すわ、その猫に名前をね…覚えてる?そういう話をしていたのよ」

「……名前ねぇ…ネコでいいんじゃね?猫だし」

「白虎や‼ 神聖なる獣『白虎』や‼」

「……ただの白い猫なんだけど…アタシ、この猫が猫以外の何者にも見えない」

 少し同情を孕んだ視線で猫を見るミリア。

「そうね、猫ね、アレかしら虎模様でもあれば違って見えるのかしら?」

「猫ちゃうんや…白虎なんや…そもそも猫喋らんやんけ…ワシ生まれた瞬間からペラペラですやん」

「存在が薄っぺらいってこと?」

「ちゃうわ‼ 存在は神聖そのものや‼むしろ重厚感があるはずやで」

「水も満足に飲めない猫に神聖さなんか感じるか‼」

「猫科は水を飲むんわ下手なんじゃ‼」

 黙ってミリアと猫(白虎)のやりとりを聴いていたキリコはそっと通話を切った。

(ダメだわ…バカって会話していると主題から外れて喋り出すのね…バカ怖い)


 結局、猫(白虎)の名前は決まらないまま部屋の電気を消した。

「なぁミリミリ?」

「ミリミリ呼ぶな」

「ワシ、自分で考えたんやけどな名前、カタカナがいいと思う? 漢字の方がいいと思う?」

「へぇ~…どうでもいいネコでいい」

「カタカナでネコ?」

「ネコ」

「……ワシ白虎やん、ネコって…喋るしね、二足歩行もできるし、頑張ったら箸も使えるかわからんで」

「へぇ~…どうでもいいネコでいい」

 暗い部屋で眠気を誘う会話を続けるミリアと猫(白虎)

「自分で候補考えてもええかな?」

「……どうぞ~…」

「よし、ほなワシ自分で考えてみるわ‼」

 スクッと立ち上がる猫(白虎)

 すかさずスパーンッと狭い額をミリアに引っ叩かれる白虎。

「寝ろや‼」

「猫は夜行性やねんぞ‼」

 ブツブツいいながら寝床で丸くなる猫(白虎)


 そんな様子をモニターしているキリコ

 ミリアの部屋には視認が難しい自走式の半機械生物型小型カメラ(Dr,キリコ自作)が侵入済みなのである。

(自分で猫って言ってるじゃない…稀に見るバカコンビだわ…寝よ)

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