第7話

 なんでこんなことするの。

 どうして私の育てるものを喰べてしまうの。

 私が半泣きで問い詰めると八代くんはさも当たり前のことのように言った。


「華耶ちゃんのことがすきだからだよ」


 中学になっても八代くんの奇行は治らなかった。それどころか私に口答えまでするようになった。

 止めてと言っても「華耶ちゃんの育てたものがほしい」。

 まるでそう言えば許されるとでも思っているみたいに。


「華耶ちゃんが育てたものをほしいと思うのはダメなの?」

「勝手に喰べたらダメに決まってるでしょ!」

「だって華耶ちゃんに聞いてもダメって言うし」

「ダメなものはダメなの」


 八代くんは不満げに眉を寄せる。


「華耶ちゃんが一番すきなんだ。華耶ちゃんだけは俺を分かってくれる。だって華耶ちゃんは俺の喰べたもの忘れないから。華耶ちゃんが特別な証拠だ。他の奴らとは違う。俺も特別で、華耶ちゃんも特別。華耶ちゃんが否定しても事実はかわらないから」


 そう言って八代くんは大きく口を開けた。


 ぱかり、と広がる八代くんの口内には、もうひとつの口がある。


 八代くんの口の中にもうひとつ口があることを、初めて知ったのはいつだっけ?


 八代くんの内側の口で喰べられたものは、喰べられなかったことになるのだと、理解したのは?





「華耶ちゃん、すきだ」






 その日の晩、家で育てていたミニトマトが喰われた。


 まだ青かった実は誰の記憶にも残らず、葉っぱに朝露が乗っかっているだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪食の八代くん 三ツ沢ひらく @orange-peco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ