第96話

昔から一緒に育った幼馴染の彼と会えるのは、この年になっても純粋に嬉しい物だ。




小学生の頃はしょっちゅうお互いのお家にお泊りしていたし。



たった一歳しか年は離れていないのに、夢月だけがどんどん魅力的な王子様になっていく気がして焦燥感に駆られていたのも懐かしい。





必死だった。



今までずっとずっと、本当の自分に嘘をついて女の子らしくて可愛い人間でいようと頑張っていた。





そのおかげでイジめられたり、嫌がらせを受けたり、友達ができなかったり…あ、同性の友達は無念な事に今も全然いないけど。



独りで悔しくて涙を流して声を押し殺していた夜もあった。





そんな記憶すら愛おしく感じられるのは、きっと今私らしく生きていられるからだ。



そのままでいいんだって、言ってくれる男に出逢えたからだ。






「どうしてって、そろそろあの時期でしょう?」


「え……え……。」





少し前を歩いていた彼が立ち止まってくるりとこちらを振り返ったかと思えば、私の手を攫ってまた歩みを再開させる。




夢月の手は今日も温かい。



いつも、どんな時も。幼い時からこの手が私を引っ張ってくれていた。





慣れたようにリビングへと繋がるドアを彼が開いた瞬間、雪乃の瞳がここぞとばかりに輝きを増した。

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