第94話

心の底から油断してしまってた。



だって彼は、紫陽花財閥のパーティーやら生徒会長としての職員会議参加とか。




色々予定が詰まっていた事を知っていたから。



てっきりもう暫く会えないと思い込んでいた。







「そんなに驚いた顔してどうしたの?真白。」




クスクスと可笑しそうに手を口許に添えて笑い声を零すそんな姿さえ雅。




育ちの良さしか感じない。



どっかの誰かも大財閥の跡取りらしいけど、あの男と夢月とでは仕草の一つ一つが天と地の差だ。月と鼈だ。




「だだっ、だって…てっきり夢月は忙しいもんだと思ってたから。」





くそう、動揺の余り見事に噛んでしまった。



頭の中が『肉喰いたい』Tシャツの羞恥心でいっぱい過ぎて、言葉が容易に出てきやしない。




母に今日の夕食を無言でリクエストする為だけにこんな服を選ぶんじゃなかったよ!!!私の馬鹿!!!!!







「ふふっ、まぁ驚いている顔もたまらなく可愛いけどね。」


「へ?」





この人、目ん玉暑さで溶けてるんじゃないかな。


こんな私が可愛く見えてるって自分で言うのも何だけど、危ないよ。





私の頬を指先でなぞって優美な笑みをぶら下げる彼が、「お邪魔しても良いかな?」と首を傾げて問いかける。



可愛い!!!そのコテンとした首の傾け方最高!!!120点!!!世界新記録樹立!!!!





「勿論だよどうぞ。」


「ありがとう、お邪魔します。」





黒執事のセバスチャン顔負けの深々としたお辞儀で彼を歓迎すれば、夢月が我が家に足を踏み入れた。

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